童話
赤ずきん
むかし、ある田舎町にいつも赤ずきんをかぶった「赤ずきん」と呼ばれるダウン症の女の子がいました。
ある日、森に住むおばあさんが病気になったというので、赤ずきんちゃんは、増えるワカメと赤ワインを持って、お見舞いに向かいました。
森の入り口で、悪い狼に出会いました。
「女の子一人でどこに行くんだい?」
「病気のおばあさんのお見舞いに行きます」
「あのお金持ちのおばあさんかい?」
「はい」
「君の名は?」
「赤ずきんといいます」
「そうかい、赤ずきんちゃん、おばあさんが喜ぶから、森の入り口で、お花を摘んでいってあげると良いよ」
「あ、良いですね。そうします」
狼は、警備の厳しいお金持ちのおばあさんの家に入り込む口実を掴み、喜び勇んで、おばあさんの家に向かいました。
狼は、おばあさんの家に着き、戸口に立ち、呼び鈴を鳴らします。
「誰だい?」
「赤ずきんです」
「合言葉は?」
「・・・」
狼は、合言葉なんて聞いていませんので、入れませんでした。
「赤ずきんめ、合言葉があったとは」
狼は、赤ずきんちゃんを待ち伏せしました。
そこへ、たくさんの花を持った赤ずきんちゃんが到着し、呼び鈴を鳴らしました。
「誰だい?」
「赤ずきんです」
「合言葉は?」
「・・・分かんない」
「おお、赤ずきんや、お入り」
「何だ、合言葉なんて無いじゃないか」
怒った狼は、赤ずきんちゃんを戸口の所で、飲みこんでしまいました。
そして、赤ずきんをかぶり、家に入り、おばあさんに近づきます。
「あら、赤ずきんや、貴方はそんなに耳が大きかったかい?」
「あばあさんの声がよく聞こえるように大きいのよ」
「目も大きいのね」
「・・・大切なおばあさんがよく見られるように大きいのよ」
「口も大きいのね」
「・・・・・・お前を食べるためだよ!」
狼は、大きな口を開け、おばあさんを食べようとしました。
しかし、その時、狼に異変が。なんと、赤ずきんちゃんと一緒に飲みこんだ増えるワカメと赤ワインが混ざって、お腹が膨れ、赤ずきんちゃん共々、吐き出してしまったのです。しかも泥酔しています。
「ぐあ、何てことだ。折角、ババアの金を奪えるところだったのに」
「さあ、悪い狼、観念しなさい」
「待って、おばあさん。この狼さん、おばあさんにお花を摘んでいくと良いよって教えてくれたの」
「貴方をおとしめるためよ」
「それでも、許してあげて。これ、お花。ワカメだらけになっちゃったけど」
「赤ずきんや、優しいだけじゃダメなんだよ」
「私から優しさが無くなったら、何も残りません」
「・・・そうかい。じゃ、赤ずきんに免じて、狼は許してあげましょう」
「ありがとう、おばあさん」
おばあさんは、弱り切った狼を家の外につまみ出しました。
「二度と来るんじゃないよ!」
おばあさんは、狼を追い出し、赤ずきんちゃんを介抱しました。
「少し酔っちゃった」
「お花、ありがとうね。それよりどうして増えるワカメと赤ワインなんて持って来たんだい」
「お母さんが持って行けって」
「そうかい。・・・実はね、あの子も昔、狼に飲みこまれたことがあるんだよ」
「本当に?」
「それで、猟師さんに助けられたの」
「それで、お母さん、増えるワカメとワインを・・・」
「みんな、貴方のことを考えて一生懸命よ」
「守られているって感じがする」
「そうよ、みんな味方」
「なんだか眠くなってきちゃった・・・」
「あら? 赤ずきんや、貴方、怪我しているね。これは、赤ワインじゃない、血だよ」
「・・・」
赤ずきんは、酔った上に、出血もしていたので、気を失ってしまいました。
おばあさんの連絡を受け、赤ずきんちゃんの母親が駆けつけました。ベッドに寝かされた赤ずきんちゃんの枕元で、おばあさんが問います。
「どうして赤ワインを?」
「あの子に血は見せられない」
「貴方のトラウマね」
「ええ・・・」
「お礼はちゃんとしたの?」
「十分なお肉を渡しておきました」
「狼さんにも、無理なお願いしちゃったね」
「ええ、でも、やっぱり来させるべきではなかった」
「危険なこともあることを教えることができたんだから」
「・・・お母さん・・・おばあさん・・・ありがと」
「あら、気が付いた? ごめんね、貴方は優しすぎるの。こうでもしないと、危ない事を覚えないでしょ」
「・・・うん、ありがと。お母さんもお花、持って行っていいよ」
「どこまで優しいの・・・?」
「・・・二人の血だよ。・・・優しい人に囲まれてるから優しくなっちゃうの」
「それじゃ、これから厳しくするわよ~」
「・・・えー、それ困る」
「嘘よ。もういいわ、いつまでも優しくしていなさい。いつまでも守る」
「うん・・・ありがとう」
こうして、優しい赤ずきんは、みんなに見守られ、平穏な人生を送りました。
「優しさって強さだったんだね」
了
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