童話
石のスープ
飢えたダウン症の修道士が、貧しい集落に辿り着きました。
「どうか食事を頂けないでしょうか」
修道士は、民家を訪ね、食事を求めますが、断られてしまいます。
「嘘をついてしまおうかな」
修道士は、そうつぶやくと、道端に落ちていた石を拾い上げ、別の民家を訪ねます。
「この石を使うと、美味しいスープが出来上がるんです」
「ほう、面白そうですね」
「どうか鍋と水を頂けないでしょうか」
民家の家人は、修道士を招き入れ、石と水を鍋に入れ、煮込みました。
「・・・ん? この石は少し古いですね」
「どうなるんですか?」
「スープが薄味になります」
「どうすれば、美味しくなりますか?」
「塩を少々、頂ければ、美味しくなります」
「では、塩を入れましょう」
といった具合に、次々に、食材を鍋に入れるよう話しました。
結局、麺と野菜と肉を入れた、大変美味しい鍋が出来上がりました。
「これは美味い!」
鍋を食べた家人は、絶賛しました。
修道士も、久しぶりの食事で、一命を取り留めました。
「この石を頂けませんか?」
「同じように作るには、コツが要りますよ」
「ええ、よく見てましたから大丈夫です」
「では、授けましょう」
結局、道で拾った石を家人に譲り、修道士は、旅を続けます。
こうして、各地で、石を使った料理が有名になり、石が流行りました。
修道士は、ブームの火付け役として、有名人になりました。
しかし、修道士は、表舞台に出てくることはありませんでした。
この修道士、ダウン症ということで、修道院を追い出された身だったのです。
「有名になったら、ダウン症の子たちが差別を受ける」
修道士は、死に場所を探して、旅を続けていたのです。
でも、飢えには勝てず、石で食事を得ていました。
その折、ある修道院が、その噂を聞きつけ、ダウン症の修道士を探し出しました。
「貴方を必要とする場所があります」
「修道院には戻りません」
「いえいえ、ダウン症児の施設の料理番になって欲しいんです」
「・・・それならば」
修道士は、道中、涙を流して、お礼を言います。
「私を必要としてくれる人がいたとは・・・」
「貴方にしかできない仕事です」
了
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- https://www.youtube.com/watch?v=tFDDTCgAHDQ
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