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第一章 第二話
予選大会の終盤、中国人の李武志が、東京観光も兼ねて、日本のパラ選手の予選を見に来ていた。
「みんな、頑張っていたね」
予選大会終了後、李武志が、アナ、カズ、義助に声をかけた。
「ありがとう、君は?」
アナが、李武志に聞いた。
「李武志と言うんだ。僕も、義足で、パラリンピックを目指している」
「2020年のパラに出るの?」
「いや、予選落ち」
「そっか……日本にいつまで居るの?」
「特に決めてないけど、お金もないし、三日くらいかな」
「じゃ、案内してあげるよ」
アナ、カズ、義助が、東京を案内した。
「SNS、やっているよね?」
義助が、李武志に聞いた。
「うん、アカウントを持っているよ」
「仲間になろうよ」
四人は、SNSの友達になった。
「予算がないなら、うちに泊まれば?」
義助が、李武志に提案した。
「良いのかい?」
李武志は、驚いたものの、その提案を受け入れた。
李武志は、義助とともに、義助の家に行った。
「あら、いらっしゃい」
義助の母が、李武志を歓迎した。
それから、三人で夕食を食べて、談笑した。
「僕は、交通事故で、義足になって、お父さんが、亡くなったんだ」
義助が、寂しそうに告げた。
「僕も事故で、母を亡くしました」
李武志が、告白した。
「そうなんだ」
義助が、少しだけホッとしたように声を出した。仲間だと思った。障害児は、同じ境遇の子がいると、とても安心して、ホッとできる。
「他に家族はいるの?」
義助の母が、心配そうに聞いた。
「お父さんと兄がいます。兄は、武漢市で眼科医をしているんです。だから、女っ気がなくて……」
「ハッハハハハ」
李武志は、それからしばらく義助の家で過ごすことにした。
翌日、アナ、カズ、義助が、李武志を誘って、一緒に東京観光をした。障害の告知を受けた時のことなど、色々な話をした。李武志も、交通事故で、母を失ったことを告白した。
「いつまでも味方だから」
アナが、きっぱりと言った。
三人は、親身になって、李武志の話を聞いた。
「今日は、泳子は居ないのかい?」
李武志が、アナに聞いた。
「あの子、心臓の状態が悪いの。水泳は、元々、リハビリのようなものだった。だけど、泳子って、頑張り屋だから、メキメキ上達して、今じゃ、パラリンピック候補よ……だから、みんな泳子を応援するの」
この日、泳子は、検査入院をしていた。
「泳子は、産まれた時、『今の医療技術では、根治手術は、不可能です』って、宣告されたの」
「そうか……」
李武志が、言葉を失った。根治手術ができないと言うことは、心臓発作でも起こせば、それは、死を意味する。
「ルドルフって奴も居るんだよ」
義助が、暗くなった雰囲気を明るく変えた。
「外人?」
「日本人とドイツ人のハーフなんだ。ルドルフのお母さんは、医師で、地元の病院に勤めていたんだ。カズのお父さんも、医師で、同じ病院の同僚だったんだ」
その時、李武志のスマホの着信音が鳴った。
李武志が、スマホを取り出して、SNSのメッセージを見た。
メッセージ:〈華南海鮮市場で七人のSARS感染が確認された〉
李武志の兄が、チャットに投稿していた。その海鮮市場は、李武志の兄の生活圏だった。
「大丈夫かな、兄貴?」
李武志が、心配した。
数日後、李武志が、義助と義助の母に、丁寧にお礼を言って、中国に帰国した。
李武志が、中国に帰国して、少しして、義助が、
義助のメッセージ:〈大丈夫だったか?〉
と、李武志にSNSのメッセージを送った。
李武志の返事は、少し経ってから来た。
李武志のメッセージ:〈無事ではなかった〉
義助のメッセージ:〈どうしたんだ?〉
李武志のメッセージ:〈兄が、デマ伝播者扱いをされている〉
李武志の兄・李文亮は、「インターネット上で虚偽の内容を掲載した」として、二〇二〇年一月三日に武漢市公安局武昌区分局の中南路派出所に呼び出された。そこで懲戒書への署名を求められ、訓戒処分を下された。
義助のメッセージ:〈なんだって!〉
李武志のメッセージ:〈ともかく、兄のことは心配しないで、東京オリパラのことだけ考えてくれ〉
義助のメッセージ:〈ありがとう。共に闘おう〉
義助と李武志は、健闘を約束し合った。
こうして、東京オリパラにあの足音が、ヒタヒタと忍び寄って来ていた――。
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