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第一章 第四話
二〇二〇年二月、日本で、全国規模のパラスポーツ大会が、開催されることになった。この大会は、東京パラリンピックの最後の選考会を兼ねていた。
「四人で東京パラリンピックに出場しよう!」
義助が、アナ、カズ、泳子を鼓舞した。
「そうね……」
アナが、力なく答えた。正直、それは、難しいと自覚していた。障害児は、色々なことを結構すぐに諦めてしまうことがあった。それでも、アナが、ここまでパラスポーツに打ち込んでこれたのは、カズ、義助、泳子のおかげだった。アナは、三人への感謝の気持ちを持って、パラスポーツ大会に挑んだ。
パラスポーツ大会が、幕を開けた。
アナが、四百メートル走に出走することになった。
「アナ、頑張れ〜!」
カズと義助が、自身の出走前にも関わらず、アナに大きな声援を送った。
「任せとけ〜」
アナが、手を振って答えた。根拠なき自信だった。
アナが、出走した。
アナが、必死に走った。
そして、ゴール。
ビリだった。
アナは、散々な結果だった。
「参加することに意義がある」
アナが、開き直った。四百メートルを完走して、満足していた。アナは、こんな時でも、みんなに笑いを提供してくれた。アナにとっては、順位など関係なかった。この場で完走できたことが、自信に繋がった。障害児は、そうして、一歩一歩、歩みを重ねるのだ。とてもゆっくりした足取りかも知れないが、着実に進んでいた。
カズが、水泳競技にエントリーした。
「頑張れ〜、お兄ちゃん!」
カズの妹が、必死に応援した。
カズが、スタートを切った。
カズは、グイグイ前方に進んだ。
決して遅くなかった。
しかし、ゴールまで少しのところで、息継ぎに失敗して、溺れそうになった。
それがきっかけで、精神的に不安定になって、パニックになってしまった。
そして、棄権した。
「僕はダメだ……」
「元気出して、お兄ちゃん」
カズの妹が、カズを慰めた。カズとカズの妹は、とても仲が良く、助け合って生きていた。それが分かっているから、アナと義助は、カズに良い成績を残してもらいたかった。
「いつかリベンジしなよ」
アナが、カズに声をかけた。
「ああ……」
カズが、力なく答えた。
泳子も、善戦したが、いい結果を残せなかった。
義助が、走り幅跳びに出走した。
「義助、頑張れ!」
アナとカズは、パラリンピック出場の夢を義助に託していた。
義助が、スタート位置に立って、助走を始めた。
ぐんぐんスピードを上げた。
跳躍。
会場が、し〜んと静まり返った。
記録が出た。
素晴らしい記録だった。
「凄いな、義助!」
アナが、ぽかんと口を開いた。
義助の東京パラリンピックへの出場が、内定した。
「お母さん、やったよ!」
義助が、観客席の母に向かって、拳を突き上げた。
「よくやったね、義助……」
義助の母が、涙を流した。
「やったよ、お父さん……」
義助が、天を見上げた。義助の記録は、義助の父と母が居なかったら、叩き出せない記録だった。アナ、カズ、泳子の功績も大きかった。義助は、周りの人々に感謝の気持ちを忘れなかった。
ある日曜日、義助が、いつものように支援学校の運動場で、自主練をしていた。アナも、東京パラリンピックに出場する訳でもなかったが、自主練に付き合っていた。
「義助、東京パラリンピック、頑張ってね」
「ああ、アナの為に走るよ」
「キモ〜い!」
アナが、照れ隠しに暴言を吐いた。アナは、顔を真っ赤にしていた。
「ハッハハハハ」
「キモいって何だよ」
実は、アナと義助は、お付き合いをしていた。手を繋いだことがあるくらいだったが、こうして、練習中にも、仲良く談笑していた。
「いつか、アナに金メダルを掛けさせてあげたい」
「期待して待っている」
義助は、義助の母の為、義助の父の為、そしてアナの為にパラリンピックでの活躍を望んだ。障害児は、周りの人々を喜ばせる為に、目の前にあるものに一所懸命に取り組む。その姿は、とても健気で、感動的だった。だから、障害児を応援したくなるのだ。
アナ、カズ、義助は、意気投合して、李武志にSNSのメッセージを送った。
「なかなか返事が来ないね」
アナが、心配していた。実際、李武志とは、音信不通の状態だった。
李武志のメッセージ:〈兄が亡くなった。大変なことが起きているのかも知れない〉
李武志から、不意にメッセージが、届いた。
「え!」
アナが、驚いて、思わず声をあげた。
画像の出典
- https://kyougikai2020.jp/theme1/名古屋市障害者スポーツ大会の観戦応援、大会運/
- https://realsound.jp/tech/2018/09/post-249359.html
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