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第一章 第六話
2020年3月13日のニュース記事:
今年1月に中国・武漢で新型コロナウイルスを原因とする肺炎が流行。その脅威は欧米など世界各地に広がり、3月11日には世界保健機関(WHO)が「パンデミック」を宣言。WHOによれば、11日時点で感染者数は114カ国で11万8000人を超え、4291人が亡くなったという。
東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会(組織委)が、新型コロナウイルスの感染拡大を受け、7月24日からの開催期間の延期、または大会そのものが中止となった場合の対応について、内部で検討を始めたことが3月12日、関係者への取材で分かった。
組織委が検討を開始したのは3月以降。もちろん組織委は表向きには、予定通りの大会開催を主張している。組織委の高橋治之理事が11日、米「ウォール・ストリート・ジャーナル」などの取材に、「最も現実的な選択肢は開催を1、2年延期すること」との見解を表明すると、すぐさま森喜朗会長が同日に記者会見。「今、方向や計画を変えることは全く考えていない」と火消しする騒ぎとなった。国際オリンピック委員会(IOC)のトーマス・バッハ会長も予定通り今夏の開催を主張している。
組織委の関係者は検討内容の詳細について口をつぐむものの、通常開催以外で今後可能性がありそうなシナリオは、以下の4パターンに分けることができる。(1)無観客で予定通りの日程で開催、(2)今年の秋以降に延期、(3)2021年7月以降に延期、(4)大会そのものの中止ーーの四つである。ダイヤモンドオンライン
アナ、カズ、義助も、否応なく、この事実に翻弄されることになった。
「東京オリパラ、中止か?」
カズが、動揺した。
「東京オリパラ、無くなっちゃうの?」
アナが、困惑した。
「信じて練習するのみだよ。最悪、次のパラリンピックにだって、出場してやる!」
義助が、豪語した。義助は、義助の父と母の為にどうしても、パラリンピックに出場したかった。
義助は、李武志とルドルフともメッセージを交わした。
ルドルフのメッセージ:〈東京オリパラ、延期か中止か……?〉
義助のメッセージ;〈どちらにせよ、練習あるのみだ〉
李武志のメッセージ:〈そうだな〉
李武志とルドルフも、同じ意見だった。
2020年3月31日のニュース記事:
今夏からの延期が決まった東京五輪が、2021年7月23日に開幕することが30日、発表された。大会組織委員会と東京都、日本政府、国際オリンピック委員会(IOC)が同日夜の電話会議で合意し、IOC理事会で承認された。大会は8月8日までの計17日間で、当初計画していた今年7月24日の開幕からほぼ1年後となる。東京パラリンピックは五輪終了後の8月24日〜9月5日に開催することで国際パラリンピック委員会(IPC)と合意した。時事ドットコム
2020年4月1日のニュース記事:
安倍は、2020年3月28日の記者会見で、日本にやってきた聖火に触れた。「この聖火こそ、今まさに私たちが直面している、長く、暗いトンネルの出口へと、人類を導く希望の灯だ。人類が新型コロナウイルスに打ち勝った証として、来年のオリンピック・パラリンピックを必ずや成功させていきたい」NHK政治マガジン
アナ、カズ、義助も、このニュースを聞いた。
「中止じゃなくて、良かった……」
アナが、安堵のため息をついた。
「この一年を有意義に使いたい」
義助が、目を輝かせた。事実、オリパラが、一年延期されることなど、これまでになかったことで、有効活用すれば、これまでにないことにチャレンジすることができた。アナ、カズ、義助は、そこに気付いていたのだ。
「ね、SNSを整備しようよ!」
アナが、提案した。
「SNS?」
「大会に関することを全部、情報交換をするの! 世界中の選手や観客に東京から情報を発信するの!」
「面白そうだね!」
「この一年を無駄にしない!」
東京オリパラに向けて、世界的ネットワーク〈五輪SNS〉が、発足した。幸い、東京オリパラの延期などの情報交換の為に、選手、選手のスタッフ、大会スタッフ、ボランティアが、この〈五輪SNS〉を利用してくれた。そうして、奇しくも、新型コロナウイルスが、世界の五輪関係者を繋ぐネットワークを作り上げた。そこには、多くのスポンサーも参加して、活況となった。
アナの五輪SNSの投稿:〈もちろん、色んな事情があるとは思う。でも、この一年を、不遇ではないものにするかどうかは、この後の展開次第だ!〉
義助の五輪SNSの投稿:〈延期でも良いから、開催になって欲しいね〉
義助が、李武志にメッセージを送った。
SNSに李武志の返事が来ない。
「どうしたんだろう?」
アナが、心配して、カズ、義助とともに、李武志に電話をかけた。
「兄は、2020年3月5日、新型肺炎の抑制に模範的な役割を果たしたとして中国政府に表彰されたんだ」
李武志が、誇らしげに伝えた。
「認めてもらえたんだね」
アナが、喜んだ。
「英雄じゃないか」
義助も言った。
「ああ、ありがとう……悔しい!」
李武志が、電話口でおいおい泣いた。
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