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第一章 第九話
2020年4月29日のニュース記事:
来年に延期された東京オリンピック・パラリンピックについて、安倍総理は、新型コロナウイルスの感染終息が開催の前提になるとの認識を明らかにしました。
「(オリンピック)1年延長をIOCに総理が提案したが、コロナが終わるという前提ですよね」(立憲民主党 白眞勲参院議員)
「終息していない中においては、完全な形で実施することはできないと思う」(安倍首相)
安倍総理は「アスリートも観客も安心して参加できる完全な形のオリンピック・パラリンピックを開催するということを申し上げている」として、来年7月に延期された東京オリンピック・パラリンピックについて、新型コロナウイルスの感染終息が開催の前提になるとの認識を示しました。
また、今の状況については「長期戦も覚悟しなければならない」としたうえで、「人類がコロナウイルス感染症に打ち勝った証しとしての大会にしなければいけない、そういう状況でなければ、なかなかこの大会は難しい」と述べ、ワクチン開発の重要性を強調しました。TBS NEWS
数日後、アナの祖父が、亡くなった。新型コロナウイルスの所為で、誰も看取ることができなかった。無念の最期だった。
「最期に、『義助、東京パラリンピック、応援しているから……』と、仰っていました」
看護師が、アナの家族に伝えてくれた。祖父が、病床で、最期に義助に思いを告げた。祖父は、義助が、アナの大事な人であることを知っていた。義助が、交通事故で父を亡くしたことも知っていた。だから、義助を応援していたのだ。
「お祖父ちゃん!」
アナが、慟哭した。カズと義助も、言葉をかけることができないほどだった。
アナの五輪SNSのメッセージ:〈祖父が、永眠しました〉
アナが、五輪SNSにメッセージを送ると、すぐに多くの返事が、返って来た。
五輪SNSのメッセージ:〈僕も、新型コロナで家族を失った〉
五輪SNSのメッセージ:〈義助の東京パラリンピックでの活躍が、はなむけになる!〉
五輪SNSでは、この他にも、新型コロナウイルスに関することが、たくさん投稿されていた。家族を失ったのは、アナだけではなかった。みんなで、その被害者を悼んだ。そして、その家族である選手を盛り立てた。五輪SNSは、確かに世界を一つにしていた。
義助が、スランプに陥った。記録も伸びなかったし、疲れも取れなくなっていた。
「お祖父ちゃんのこと、気にしなくて良いからね」
アナが、優しく義助に声をかけた。
「ああ……」
義助が、気の無い返事をした。義助は、明らかに集中力を欠いていた。
「義助、頑張れよ!」
義助のチームのメンバーが、義助を盛り立てた。
「一緒に練習するね」
アナとカズが、義助の練習に付き合った。
「ありがとう……」
義助が、黙々と走った。
「スランプから脱したければ、走るのみ!」
アナが、偉そうに助言した。
「分かった風なことを言って!」
「ハッハハハハ」
義助に笑顔が戻った。それが、アナとカズの目的だった。
「私を見習え!」
アナが、義助の前で、ダッシュをして見せた。その走りは、とても、遅かった。
「ハッハハハハ」
義助が、思わず笑ってしまった。アナは、こんな時でも、コメディエンヌに徹した。
それからも、義助のチームは、練習環境の改善、心のケア、食事など、義助に力を貸してくれた。義助のチームは、一つになっていた。
「このチームで、東京パラリンピックを目指すんだ!」
義助が、自分自身を鼓舞した。
2020年5月4日のニュース記事:
5月6日までを期限に全国に出されていた緊急事態宣言が5月31日まで延期される。4日に安倍首相が発表した。
安倍首相は、多いときは700人を超えていた全国の新型コロナウイルス感染者数が直近では約200名、約3分の1に減少し、「収束に向けた道を着実に前進していることを意味する」と言及。「欧米のような感染爆発が起こるという悲観的な予想もあったが、私達の行動は私達の未来を確実に変えつつある」とし、緊急事態宣言から約1カ月での感染者減の実現と、国民の協力について感謝を述べた。インプレス
「いつまで続くんだ……?」
義助は、外での練習を控えて、家の中で、体幹を鍛える練習などをしていた。
そんな中、五輪SNSでは、活発な議論が、交わされていた。
五輪SNSのメッセージ:〈米国は、大変なことになっている。これじゃ、オリパラの練習どころじゃないよ!〉
五輪SNSのメッセージ:〈仲間が、次々感染している!〉
世界中の悲痛な叫びだった。
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