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第二章 第二話


 短い夏休みが明けた。
 三人は、授業の後、相変わらず、運動場へ行って、東京パラリンピックへ向けて、自主練をしていた。
「義助、期待しているぞ」アナが、義助の練習の足手まといになっていた。
「アナだって、練習して、出場目指せよ」
「その気がない訳じゃないんだけどね〜」アナは、煮え切らない様子。

 その日、三人が、自主練を終えて、一緒に支援学校の校門を出た。
 その時、近所の住民が、カズを指差して、
「医療従事者の子供ですって」
 と、不快な表情を浮かべた。あからさまな偏見だった。カズの父は、医師だったのだ。
「カズ、気にするな。こんな時なんだから、色々あるさ」義助が、カズを慰めた。
「ああ……」カズが、力なく答えた。
「うちは、お母さんが、内職を始めたよ。家計が火の車!」アナが、微笑みながら、フォローした。
「うちも、大変だよ。なんてったって、夜の街だからね」義助も、カズに声をかけた。義助の母は、義肢装具士の資格を持った、チーママだった。昼は、病院で働き、夜は、スナックで働いていたが、病院は現在、テレワークが導入され、スナックは、休業状態だった。
「お父さんは、働き詰めで、病院で寝泊まりすることもあるんだ」カズが、小さく呟いた。
「そんな人が、蔑まれる謂れはない」義助が、語気を強めた。
「最高のお父さんだと思うよ」アナも、力強く言った。
「ありがとう」カズは、二人に勇気付けられて、目が潤んでいた。

 数日後の放課後、カズが、体調を崩してしまった。昼過ぎから熱が出て、アナと義助が、カズを保健室へ連れて行った。
「コロナですかね?」アナが、保健の先生に尋ねた。保健の先生は、若い女性で、いつも白衣を着ていた。
「こんな時だし、医師の子だからな〜」保健の先生が、近くの総合病院に連絡を入れた。
「大丈夫だからな、カズ」アナが、カズに声をかけた。
「一応、今から、総合病院に行って来な」保健の先生が、カズに伝えた。
「はい……」カズが、不安そうに答えた。
「僕たちが連れて行きます」義助が、申し出た。
「大丈夫?」保健の先生が、心配そうにしていた。
「大丈夫です」アナが、きっぱりと言った。

 そうして、アナと義助が、カズを総合病院に連れて行った。カズの父の働く病院だった。アナと義助が、カズを支えながら、カズの父の診察室に入った。
「カズが、体調を崩して、もしかしたら、コロナじゃないかって……」アナが、カズの父に言った。
「受付順に呼ぶから」カズの父が、さらりと言った。
「でも……」
「順番は守りなさい。全ての患者さんを平等に扱う主義でね」
「アナ、それで良いよ」カズが、力なく答えた。
「……分かりました」アナが、渋々引き下がった。

 三人は、受付を済ませて、待合室で順番を待った。
「こんな時だから、待合室も危険だよ。二人は、帰って良いよ」カズが、アナと義助に声をかけた。
「仲間だろう。見捨てる訳にはいかない」アナが、きっぱりと言い放った。
「ありがとう」カズが、少し辛そうに答えた。

 しばらくして、カズの順番が来た。
「一人で行ってくるよ」カズが、アナと義助を置いて、診察室へ入って行った。
 カズが、カズの父に、
「昼過ぎ頃から、辛くなって。熱が出て……」
 と、病状を説明した。
「どれ……」
 カズの父が、診察をした。
「お父さん……近所の人から、『医療従事者の子供ですって』って、言われたよ……」カズが、カズの父に偏見の話をした。
「耐えなさい。分かってもらえる日が来るから」カズの父が、頼り甲斐のある様子で答えた。

 結局、カズは、自宅療養することになって、アナと義助が、カズを家まで送って行った。
「まあま、ありがとうね。アナちゃん、義助くん」カズの母が、玄関で出迎えた。
「お大事にね」アナが、カズに声をかけた。
「ああ、ありがとう」
「それじゃ、帰るわ」
「ああ」
 アナと義助が、カズの家を後にした。

 それから、カズの母が、カズの看病をした。
 カズは、昔、肺結核に罹ったことがあった。カズの父が、懸命の治療を施した。そうして、事なきを得た。
「あの時も、他の患者さんをないがしろにしなかった。そう言う人よ」カズの母が、カズに優しく声をかけた。
「なんだか誇らしいよ」カズが、ぼんやりと答えた。


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