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第二章 第六話


マスク専門店

 2020年9月8日のニュース記事:  この店はマスクを着用する機会が増えていることから、自分好みのマスクを探してもらおうと、流通大手のグループ会社が東京駅の八重洲地下街にオープンさせました。60平方メートル余りの売り場では、保湿や紫外線カットの機能を持つという500円のマスクから、ガラスの飾りを手作業であしらった1枚10万円のマスクまで200種類以上を販売しています。

 晩、アナとアナの父母が、自宅で夕食を食べ終えた。  アナの母は、収入が減って、内職に勤しんでいた。 「お母さん、内職じゃなくて、マスクでも作ったら?」アナが、ニュース記事を読んで、助言した。 「あら、良い考えね。流石、我が子」 「いやぁ、それほどでも」アナが、おどけて見せた。 「ハッハハハハ」 「どういうマスクにしようか?」アナの母が、アナに尋ねた。 「小さな刺繍を付けたら?」 「良いねぇ〜」アナの母が、刺繍入りのマスクを作り始めた。 「手伝うよ」アナも、手伝った。 「あら、アナ上手なのね!」 「学校で、刺繍の職業訓練もしているから」アナの刺繍は、独創的だった。 「ネットで売ってみたらどうだい?」アナの父が、二人の様子を見て、通販サイトを作ってくれた。  三人は、自宅で黙々と作業をしていた。 「ごめんね、ダウン症で」アナが、ぽつりと言った。 「何言っているの。そんなこと気にしなさんな」アナの父が、笑った。 「アナが、産まれてしばらくして、手術する必要があるかも知れないって言われてね……びっくりしちゃった」アナの母が、昔を思い出した。 「手術したの?」アナが、驚いて聞いた。 「ううん。結局、しなくて済んだんだけどね」 「ふ〜ん」 「色んなドラマがあった。アナのおかげよ」 「いやぁ、それほどでも」 「ハッハハハハ」  三人は、再び、黙々と作業に励んだ。 「……この時間に感謝だね」アナが、しみじみと言った。 「そうね」アナの母が、微笑んだ。  アナの家族にとって、至福の時間だった。  その夜、アナの父と母が、寝室で寝ていた。 「婚約指輪、売ろうか?」アナの母が、アナの父に告げた。 「もう少し、頑張ってみよう。いよいよダメなら、引っ越そう」 「アナの転校か……」 「それだけは避けたいけど……」 「どうしてこんなことに……」アナの母が、涙を流した。  新型コロナウイルスの影響は、アナの家庭にまで大きな影を落としていた。  翌日の朝、三人が、支援学校の教室に行くと、コロナに感染していた先生が、 「ご迷惑おかけしました」  と、支援学校に戻って来た。 「良かった」アナが、嬉しそうに先生に抱きついた。 「こらこら、まだウイルスが付いているかも知れないぞ」  先生が、嬉しそうに忠告した。
菅内閣

 2020年9月16日のニュース記事:  2020年9月16日に菅内閣が発足した。 「新しい内閣に対する国民の期待。今、国民が求めているのは、この新型コロナウイルス、その終息を何とか早くやってほしい。そして同時に、経済をしっかり立て直してほしい。正にこの感染拡大防止と経済、両立を国民の皆さんは一番望んでいるというように思います。  私たち、今日、内閣が発足したわけであります。まずこのことに全力を挙げて取り組んでいきたい。そして、国民の皆さんに、一人一人が安心して生活できる元どおりの生活、ここを一刻も早く実現したいと思います。  そのためには、先ほど申し上げましたけれども、このコロナ禍の中でいろいろな学習もしてきましたので、この対策についても、めりはりのある対策をやる。そして、コントロールしていく。また、GoToキャンペーン、こうしたものにも支援を行い、経済の回復もしっかり目指していく。まずはここに専念をしたいというふうに思います。  そういう中で、ワクチンの確保、これは先ほど申し上げましたように、来年にまではワクチンの確保、こうしたことは来年の前半まで目指していくことを申し上げました。そういう中で、いずれにしろ1年以内に衆議院はこれ解散総選挙があるわけでありますから、そうした時間の制約も視野に入れながら、ここは考えていきたい、こう思います」

 アナとアナの父母が、夕方のテレビを見ていた。 「アベノマスクに引導を渡そう!」アナが、気合を入れて、マスクの刺繍を作った。 「おう!」アナの母も、呼応した。  アナの父が、二人の姿を見て、微笑んでいた。  家計は火の車でも、アナのおかげで、平静を保つことができていた。


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