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第三章 第七話
ルドルフは、ドイツの普通高校の体育館に移動していた。
ルドルフが、声を潜めて、
「今から、来年度の生徒会長を決めるんだ」
と、伝えた。
生徒会長の候補は、二人いた。
一人は、文武両道の女子生徒だった。誰からも慕われる、素晴らしい人格者だった。
対抗馬は、発達障害のある男子生徒だった。
「僕も応援しているんだ」
ルドルフが、男子生徒の推薦人をしていた。
「生徒会長は、彼女の他にいないわ」「いや、彼に決まっている」「障害があっても?」「障害があるからこそよ」
普通高校の生徒が、口々に当選者を予想していた。
五輪SNSのメッセージ:〈女子生徒と障害児か……ドイツは、進んでいるね〉
五輪SNSには、肯定的な意見が、多く寄せられた。
女子生徒と男子生徒が、最後の演説をした。
その後、体育館で、投開票が行われた。
結果が出た。
当選したのは、男子生徒だった。
五輪SNSのメッセージ:〈ドイツって、凄いや〉
五輪SNSの日本人のメッセージ:〈日本も見習わないと〉
「おめでとう」
女子生徒が、男子生徒に声をかけた。
「ありがとう。素晴らしい選挙だった」
「思わず、貴方に投票しちゃったわ」
「僕も、君に」
「ハッハハハハ」
ルドルフも、男子生徒の当選を心から喜んだ。
*
ある休日の昼下がり、隣県の片道一車線の国道の交差点で、右折しようとした軽自動車が、大型トラックに衝突した。軽自動車が、すぐ脇の歩道に弾き飛ばされた。そこには、幼稚園の年長のルドルフとルドルフの父が、歩いていた。
「危ない!」
ルドルフの父が、ルドルフをかばった。ルドルフの父は、軽自動車の下敷きになり、ルドルフも、左足を車体に挟まれた。
「ルドルフ、大丈夫か!」
ルドルフの父が、ルドルフに声をかけた。
「お父さん、痛いよ~」
ルドルフが、力なく答えた。
ルドルフとルドルフの父は、救急車で、総合病院に搬送された。ルドルフの母が、病院に駆けつけた。
ルドルフは、救急処置を受けて、一命をとりとめた。ルドルフは、病室に移され、麻酔から覚めた。傍らには、ルドルフの母が、見守っていた。
「お父さんは……?」
「亡くなったわ」
ルドルフの母が、気丈に答えた。ルドルフの父は、交通事故後、ほどなくして、亡くなっていた。
「そんな……」
ルドルフが、涙を流した。ルドルフの母が、ルドルフの頭を撫でた。
実は、この時、ルドルフの左足は、切断されて、義足になることが決まっていた。ルドルフの母は、それを言い出すことができなかった。
後日、ルドルフの検査が行われ、高次脳機能障害もあることが分かった。
数日後、ルドルフの父の葬儀が、商店街の葬儀場で、執り行われた。ルドルフが、一時退院して、車椅子に乗って、参列した。ルドルフの母が、喪主を務めて、忙しそうに参列者に挨拶をしていた。ルドルフは、親戚の叔母さんに付き添われていた。
「大変だったね」
「はい」
「元気を出すんだよ。お母さんの為にも」
「そうします」
親戚の叔母さんが、ルドルフを勇気付けてくれた。ルドルフは、涙をこらえて、気丈に振る舞った。
その夜、ルドルフは、病院に戻っていた。
「調子はどう?」
ルドルフの母が、お見舞いに来てくれた。
「すこぶる元気」
「ハッハハハハ」
「ルドルフ、泣いて良いのよ」
「お母さん……」
ルドルフが、慟哭した。力の限り泣いた。ルドルフの母も、一緒になって泣いた。そうして、ルドルフとルドルフの母は、辛い思いを爆発させた。
「今日は、一緒に居たいから」
ルドルフの母が、一晩中、ルドルフに寄り添ってくれた。
「ありがとう」
ルドルフは、それが、とても心強かった。父亡き今、ルドルフとルドルフの母は、力を合わせて暮らしていくことを誓い合った。
その夜、ルドルフが、眠りに就く少し前、ルドルフの母が、
「ルドルフ、お父さんの最期の言葉を伝えるわ」
と、告げた。
「最期の言葉?」
「お父さん、病院に搬送されて、最期に『ルドルフを最高のアスリートにしてくれ』って、言って、亡くなったの。ルドルフが、義足になることを知らなかったからね……お母さん、途方に暮れちゃった。でも、パラスポーツがあった。それに救われたの」
「そうか……僕、最高のパラアスリートになるよ」
ルドルフが、ルドルフの母に力強く告げた。
ルドルフの父は、有望なアスリートで、ルドルフに夢を託していたのだ。
*
五輪SNSのメッセージ:〈義助、李武志、ルドルフは、交通事故で、義足になって、大切な家族を失ったらしい〉
五輪SNSのメッセージ:〈辛かったね……応援してあげなくちゃ〉
五輪SNSのメッセージ:〈パラ選手には、みんなそれぞれのドラマがある〉
五輪SNSのメッセージ:〈だから、惹かれるのかも知れないね〉
「僕たちは、この社会の中で、生かされている。社会の為に貢献したいんだ。東京オリパラが、必要なんだ!」
ルドルフが、ドイツでのライブ配信を締め括った。
*
ライブ配信は、アメリカに渡った。アメリカのオリパラへの想いは、ドイツにも負けていなかった。アメリカでは、新型コロナウイルスで、多くの犠牲者が出た。
「アメリカ人も、東京オリパラへの想いは、同じだわ。負けてたまるか!」
アメリカの障害児が、きっぱりと言い放った。
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