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第四章 第二話


 2021年1月5日、朝、アナ、カズ、義助が、近くの神社へ初詣に行くことにした。アナとカズが、待ち合わせ場所の鳥居の横で待っていると、義助が、てくてくと歩いて来た。
「ごめん、遅れちゃった」義助が、謝った。
「良いよ。そんなこと。じゃ、行こうか」アナが、リードして、三人は、鳥居をくぐった。
「やっぱり、空いているね」義助が、感想を述べた。
「分散参拝も、良いものだね」アナが、頬を高揚させて微笑んだ。
「元日は、それでも結構混んだみたい。近所のおじさんが、教えてくれた」カズが、二人に報告した。
「この状況下でも、元日に行くのは、どういう理由なんだろうね?」アナが、不思議そうに言った。
「分散してでも、来るのと同じ理由だろう」義助が、そっけなく答えた。
「そんなものかなぁ」
「それよりもさ、今年、久しぶりに小学校の支援学級の恩師から、年賀状が届いてさ」義助が、嬉しそうに話した。
「東京パラリンピックの話?」アナが、聞いた。
「それにも関係するんだけど、今度、母校の支援学級の教室で講演することになりそうで」
「凄いじゃん!」
「恩返しをしたいな」義助が、照れ臭そうに微笑んだ。
「なんて返事書いたの?」
「書いてない」
「書けよ!」アナとカズが、同時に突っ込んだ。
「ハッハハハハ」
「まあね……断ろうかと……」
「引き受けろ!」アナが、義助に命令した。
「内容とかあるの?」カズが、義助に聞いた。
「インクルーシブ教育について話して欲しいって」
 インクルーシブ教育とは、障害の有無にかかわらず、全ての子供を受け入れる教育。例えば、支援学級の生徒が、普通学級の生徒と一緒に授業を受けるなどする。
「話すことは決めたの?」アナが、義助に聞いた。
「まだなんだ」
「今から、考えよう!」
 三人で、初詣をしながら、義助の講演の原稿を考えることになった。
「インクルーシブ教育、あったねぇ」アナが、昔を思い出した。
「懐かしいな」カズも、口元を緩めた。
「勉強、付いて行けなかったなぁ」
「そうだね。あれは、キツかった。けど、将来の為だから」カズは、医師を希望していた。
「カズは、そうだよね。義助は、交通事故の後、すぐに支援学級に移ったんだっけ?」
「高次脳機能障害もあったからね。それでも、インクルーシブ教育で、普通学級でも勉強したよ」
「どうだった……その、旧友と一緒に学ぶというのは?」
「大きな溝ができていたね。逆に辛かった」
「そっか……」
「アナとカズは、偏見に遭ったりした?」義助が、控えめに尋ねた。
「あからさまには無いけど、距離は感じるよね。普段、隔離されているようなものだから。いきなり出ろって言われてもね」アナが、ハキハキと答えた。
「確かに」カズも、賛同した。
「仲良くしてくれる子もいたけど、その子が、浮いちゃって……」
「だね……」
「ああいうのを偏見ウイルスって名付ければ良いんだ」アナが、偏見は、感染すると主張した。
「一理あるかもね。クラスターとかが発生したら、いじめとかにつながって」義助も、アナの意見に乗っかった。
 三人は、そうして、インクルーシブ教育について熱く語り合った。
「で、いつ講演するの?」アナが、義助に聞いた。
「1月7日」
「もうすぐじゃん!」
「そうなんだ。どうしようかな……」義助が、不安そうに呟いた。
「引き受けろ。私たちも付いて行くから」アナが、頼り甲斐のあるところを見せた。
「じゃ、引き受けようかな……」


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