〇〇〇〇〇

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最終話


 夏休みも終盤になった。アナ、カズ、義助が、アナの家に集まっていた。
「ね、ステイホーム週間って、あったじゃない」
 アナが、言い出した。
「ああ、あったね」義助が、返事をした。
「今度は、ホームステイ週間ってやってみない?」
「何するの?」カズが、質問した。
「外国人を東京パラリンピックの前に、家に泊めてあげるの。ほら、私たちって、障害児じゃん。だから、障害のある人が、安心して過ごせると思うの。東京パラリンピック中は、私たちが、観戦に行っちゃうから、あれだけど、その前だけでも、日本の家庭を体験させてあげたいじゃん」
「ああ、僕らの家族も慣れているしね」義助も、理解を示した。
「最後は、人よ」
「そうだね」カズも、賛同した。
 三人は、早速、五輪SNSで、提案した。
 五輪SNSの返事:〈泊まってみたい!〉
 五輪SNSの返事:〈実は、宿泊代が、高くて諦めていたんだ〉
 五輪SNSには、大反響があった。
 五輪SNSの返事:〈最大限協力したい〉
 三人の家だけではなく、多くの一般家庭も、ノウハウを勉強して、外国人を受け入れてくれた。
 そうして、アナ、カズ、義助の家に、外国人が、泊りに来た。多くの外国人は、大会期間中は、ホテルに滞在するが、その前に、東京観光をする為、ホームステイすることにした。
 アナの家には、ダウン症の女の子の家族が、泊りに来た。アナの家には、泳子が遊びに来ていて、女の子は、泳子に会って、
「応援しています!」
 と、感激していた。
「日本語、上手ね」
 アナが、驚いた。
「亡くなった家族の為、日本に来たくて、一年間、みっちり勉強しました。この一年を無駄にしたくなくて」
「そうだね。無駄にはしない」
 泳子が、活躍を誓った。

 カズの家には、発達障害のパラリンピック選手が、泊りに来た。
 しかし、そのパラ選手が、夜、具合が悪くなった。カズの父が、緊急の手当てを施して、大事には至らなかった。
「お父さん、やっぱり凄い」
 カズが、興奮気味に言った。
「パラリンピック、応援に行くからね」
 カズの母が、パラ選手に優しく声をかけた。
「心強いです」
 パラ選手が、喜んだ。

 義助の家には、ルドルフとルドルフの母が、泊った。
 義助の母が、二人をもてなした。
「お父さん亡くなった時は、もうダメかと思ったわ。でもね……義助、あの言葉、覚えている?」
 義助の母が、酒に酔って、本音を語った。
「いつの話?」義助が、訝しんだ。
「義助が退院する日、『お母さんとこんなに一緒に居たの、初めてだった』って……義助の力になりたくてね」
 実際、義助の母は、とても忙しく、義助との時間をほとんど持てなかった。
「それで、義肢装具士に?」
「もちろん。義助しか、生き甲斐はないわ」
「ありがとう」
 翌朝、四人で朝食を食べていた。
「今は、何の研究をされているんですか」
 義助の母が、ルドルフの母に、質問した。
「ダウン症の研究を……ルドルフが、アナちゃんのことを好きらしいの」
「そ、そんなことあるかい!」ルドルフが、赤面して答えた。
「初耳だな」義助が、冷静につぶやいた。
「ハッハハハハ」
「それもあってね」
 ルドルフの母が、場を盛り上げた。

 三人が、SNSで連絡を取り合って、ホームステイをした外国人たちと一緒に、大会前の東京観光をした。
 外国人たちは、東京観光を終えて、最後に、慰霊碑に花を手向けた。
「義助さん、東京パラリンピック、頑張ってくださいね」
 アナの家に泊まった女の子が、義助に期待した。
「最善を尽くすよ」
「この子、今からもう夜、寝られないのよ。緊張して」
 義助の母が、楽しそうに言った。
「ハッハハハハ」
「義助、勝負だ」
 ルドルフが真剣に声をかけた。
「ああ、楽しみにしている」
 義助の目は、真剣そのものだった。

 三人は、外国人たちを見送った。
「さあ、いよいよ東京パラリンピックの開幕だ!」
 義助が、自身に気合を入れた。
「ありがとうね、義助」
 アナが、義助にお礼を言った。
「なんかあったっけ?」
 義助は、思い当たる節がなかった。
「『+1』のこと」
 義助はかつて、東京オリパラの『+1』のことを、アナのダウン症の二十一番染色体のことだと言ってくれた。
「ああ、あれね」
「本当に嬉しかった」
「東京パラリンピックで、選手たちの『+1』を見よう。未来永劫、こんな逆境はないだろうから」
「そうね、コロナで苦しんだ分、感謝しなきゃ」

 そうして、東京パラリンピックは、実施されることになった。





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