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第六章 第四話


 パラリンピックの水泳会場には、泳子の姿があった。泳子は、障害病棟から水泳会場まで、ベッドで運ばれた。
「ありがとう、皆さん」
 泳子が、お礼を述べた。アナを始め、障害病棟の全ての人々が、力を貸してくれた。この状態で、競技に臨むことにしたのだ。
「本当に泳ぐのね?」
 アナが、泳子に声をかけた。
「はい」
「ダメそうだったら、飛び込んで助けて、棄権にするからね」
「……はい」
 障害病棟の職員が、プールの周りを囲んだ。その数、三十人。厳戒態勢だった。
「いざとなったら、ワシが、助けるから」
 その中に、政吉の姿もあった。政吉は、照れ臭そうに泳子に声をかけた。
「はい」
 泳子が、微笑んで応えた。

 泳子のレースが、始まった。
 泳子は、素晴らしいスタートを切った。
 それから、ぐんぐん勢いを増した。
 とてつもなく速かった。
 そして、ゴール。
 一位だった。
 水泳会場に、「わあっ!」と、大歓声が起きた。
 泳子は、プールの水がしたたり落ちる中、おいおい泣き続けた。目からは、大粒の涙が、溢れた。プールの水でないことが、はっきりと分かるほどに。障害病棟の職員も、目に涙を溜めて拍手を送っていた。患者の病気を治すだけが、仕事ではないのだ。政吉は、感動して、震えていた。

 アナ、カズ、義助が、障害病棟に戻って、政吉の病室に行った。政吉も、障害病棟に戻って来ていた。義助が、政吉のリハビリをしていて、政吉の孫が、その様子に見入っていた。
「僕も、リハビリやって見たいな」
 政吉の孫が、義助に申し出た。
「良いよ。やって見な」
「こんな感じ?」
 政吉の孫が、義助の真似をして、政吉のリハビリをしていた。
「うん、いい感じ」
 義助が、政吉の孫に優しく声をかけた。
「ありがとうな」
 政吉が、しみじみと言った。
「なに言ってるの。お祖父ちゃんの為だもん」
「本当にありがとう……」
 政吉が、涙を流して喜んだ。政吉と政吉の孫は、しばらくそうしていた。アナ、カズ、義助も、その微笑ましい光景を眺めていた。
「それじゃ、帰りますね」
 政吉の妻と政吉の孫が、帰宅することになった。
「主人をよろしくお願いします」
 政吉の妻が、義助に頭を下げた。
「任せてください」
 義助が、胸を張って答えた。

 政吉の妻と政吉の孫が、帰宅して、小一時間が経った。
「く、苦しい……腹が……」
 政吉の具合が、急変した。
「ぼ、僕も……」
 義助も、体調を崩した。
 他にも、体調を崩した患者がいた。
「院内感染か?」
 障害病棟内が、騒然とした。
 アナとカズが、義助と政吉の看病を続けた。
「アナ、院内感染だったら、お前も移るぞ!」
 カズが、アナの心配をした。
「それでも、義助と政吉さんを救うんだ!」
 アナが、豪語した。
 アナとカズが、治療を続けていた。
「あ、これ腐ってる」
 看護師が、それに気付いた。政吉と同じ病室の患者の差し入れのまんじゅうが、腐っていたのだ。
「義助も、まんじゅう食べたのか?」
 カズが、義助に問うた。
「食べた……」
 結果的には、院内感染ではなく、軽い食あたりだった。
「食あたりとはね」
 義助が、呆れていた。
「そんなことで済んで良かった」
 カズが、安堵した。
「ハッハハハハ」
 義助と政吉らが、薬を飲んで、みるみる回復した。
「ありがとうな、アナ」
 義助が、アナにお礼を言った。
「政吉さんのついでだから」
 アナが、照れ臭そうにお茶目に言った。
「ハッハハハハ」


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