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第六章 第五話


 夕方、三人が、ルドルフとともに、障害病棟の食堂で夕食を食べていた。
「忙しくて、夕食どころじゃないわ」
 アナが、トンカツをモリモリ食べながら、言った。
「アナ、痩せちゃうね」
 カズが、アナを茶化した。
「痩せる気配もないけどな」
 義助が、突っ込みを入れた。
「ハッハハハハ」
「ストレス太りよ」
 アナが、白米を頬張りながら答えた。
「それにしても、小学校以来か……」
 義助が、懐かしそうに言った。実際、義助たちが、ルドルフに再会したのは、小学生の時以来だった。
「五輪SNS、三人が作ったんだって?」
 ルドルフが、改めて、驚きを持って言った。
「まあね」
 アナが、得意げに答えた。
「凄いな~」
 三人が、ルドルフと積もる話をした。
「義助、ルドルフに負けたな」
 カズが、思い出したように言った。
「義足の調整が、良過ぎたんだよ」
 義助が、悔しそうに言った。ルドルフの義足の最終調整をしたのは、義助だった。
「確かに」
 ルドルフも、それを認めた。
「ハッハハハハ」
「次のパラリンピックでは、負けないから」
 義助が、きっぱりと言った。
「僕は、引退しようと思っている。そして、後進の選手を育てたいんだ」
 ルドルフが、真剣に答えた。
「マジか!」
 義助が、驚いた。
「義助と違って、立派ね~」
 アナが、嬉しそうに言った。
「ハッハハハハ」
 その時、障害病棟内に、
「パラリンピックの閉会式が、まもなく開催されます」
 と、院内放送が流れた。
「せっかくだから、閉会式に行って来なよ」
 院長先生が、四人の元に来て声をかけた。
「はい、ありがとうございます。ね、政吉さんも、連れて行こうよ」
 アナが、提案した。
「そうだね」
 義助が、答えた。
 三人とルドルフが、政吉を連れて、パラリンピックの閉会式の会場に行った。

 閉会式が、開催された。
「……これ以上、背負うものの重いパラリンピックは、他になかった……皆さん、ありがとう……」
 選手の代表が、スピーチした。最後は、言葉にならなかった。この選手もまた、新型コロナウイルスで、家族を亡くしていた。東京パラリンピックの選手の多くは、新型コロナウイルスで、家族や友人を失った。中には、選手自身が、亡くなって、代役として、東京パラリンピックに出場した選手もいた。だから、選手は、必死に競技に取り組んだ。これまでのパラリンピックでは、考えられないほどの真剣度だった。選手たちは、勝っても負けても、涙を流した。それが、亡くなった方への供養だった。
 閉会式の最後、会場で、世界中の人々が、インターネットを介して、大合唱をすることになった。インターネットの通信速度が上がって、実現した試みだった。
 前奏が、始まった。
 大合唱が、スタートした。
 観客のスマホからも、会場外の人々の歌声が、聞こえた。
 世界中の声が、会場に響いた。
「世界が、一つになっている」
 世界中の至る所で、大合唱が聞こえたと言う。新型コロナウイルスで亡くなった方の鎮魂だった。
 東京オリパラは、こうして成功裏に終わった。

 三人が、ルドルフとともに、障害病棟に戻った。
 ルドルフが、アナと二人きりになって、
「アナ、付き合ってくれないか?」
 と、告った。
「また告白?」
 ルドルフは、小学生の時に、アナに告ったことがあった。
「どうだい?」
「ごめん」
「好きな子がいるのか? だったら、応援するぞ」
「それは居ないけど、やっぱり障害児だから……」
「気にするなよ、そんなこと」
「気になるよ」
「障害児でも、大手を振って、恋愛ができる世の中にしなきゃ。その一歩が、この東京パラリンピックなのかも知れないじゃないか」
「そうね。明るい未来が待っている」
 アナは、そう言って、ふさぎ込んでしまった。
 ルドルフは、やり切れない思いだった。障害児は、こうして、自分たちの未来に限界を作ってしまう。それを打ち破らないと行けないのだ。


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