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第六章 最終話


 昼、障害病棟の閉鎖の時が来た。
 三人と職員らが、障害病棟の前で、患者とその家族を送り出した。
「それじゃ、さようなら」
 最後の患者たちが、障害病棟を後にした。患者の中には、退院する者もいたし、一般病棟に移った者もいた。皆、満足そうに去って行った。笑美の父も、無事退院できた。
 三人は、感慨深そうに、その姿を見つめていた。
 そんな中、泳子、笑美、ルドルフが、三人にメダルを作ってくれた。
「金と銀がありますから」
 泳子が、楽しそうに言った。
「え、何で! 全部、金で良いじゃん!」
 アナが、驚いた。
「ハッハハハハ」
「ありがとう、アナさん」
 泳子が、アナに金メダルをかけた。
「どういたしまして」
 アナが、泳子に微笑んだ。
 笑美の筆談:〈ありがとう、カズさん〉
 笑美が、カズに金メダルをかけた。
 カズが、手話で、「頑張って」と、励ました。
 笑美が、手話で、「ありがとう」と、答えた。
「ありがとう、義助。二位だったから」
 ルドルフが、義助に銀メダルをかけた。
「そこは、金メダルで良いじゃん!」
 義助が、突っ込みを入れた。
「ハッハハハハ」
「義助の銀は、周りの人を幸せにするから。そして、三年後のパラリンピックで、金メダルを取ってくれ」
「分かったよ」
 義助とルドルフが、固く握手を交わした。

 障害病棟の関係者が、三人との別れを惜しんだ。
「どうして、三人は、この障害病棟へ来たの?」
 院長先生が、改めて、三人に聞いた。
「障害のある私たちが、障害のある人の為に奮闘する姿を見せたかったんです。それが、力になると思ったから。大げさでしょうか?」
 アナが、堂々と答えた。
「いいえ。とても勇気付けられましたよ」
 院長先生の目には、光るものがあった。三人の為に、院長になることを直訴して良かった。万感の思いだった。
 泳子は、一応、一般病棟に移って、笑美は、父の元へ、ルドルフは、ドイツへと向かった。
 院長先生が、
「直接は、言いにくかったみたい」
 と、三人に手紙を渡した。泳子、笑美、ルドルフからの手紙だった。
 泳子の手紙:〈夢が叶った。パラリンピックの一位になれた。全ては、障害病棟のおかげ。本当に出場させてくれて、ありがとう。この恩返しは、必ず! アナさん、次は、ライバルになってください!〉
「アナ、ライバルになってあげなよ」
 義助が、アナに声をかけた。
「……もう少し、痩せたらね」
「ハッハハハハ」
「じゃ、無理だな」
「ひど~い」
「ハッハハハハ」
 笑美の手紙:〈カズさん、手話のギャグ、ありがとう。本当にスベりまくっていましたね。とても、癒されました。お望み通り、頑張ります!〉
「スベってごめんね!」
 カズが、心を込めて、手話のギャグをした。みんなが、し~んと静まり返った。
「またスベった」
 アナが、突っ込んだ。
「ハッハハハハ」
「でも、良い手話を覚えることができた。ありがとう」
 アナが、カズに感謝した。
「それほどでもないさ」
 カズが、照れ臭そうに笑った。
 ルドルフの手紙:〈久しぶりの日本。充実していた。実は、みんなとの再会を一番の楽しみにしていた。義助、三年後のパラリンピックで会おう! アナ、三年後、また告るから。その時までに、世の中を変えよう! カズ、アナを大事にしてやれ!〉
「ルドルフ、アナに告ったのかよ!」
 義助が、興奮した。
「アナ、好きだ」
 カズが、勢いでアナに告った。
「ごめんなさい」
 アナが、カズを振った。ルドルフのアシストは、空振りに終わった。
 義助は、二人のやり取りを微笑んで見つめていた。
 そして、最後、政吉の手紙が添えてあった。たった一言、
 政吉の手紙:〈闘病生活、最高に楽しかった〉
 と、書いてあった。
「政吉さん……」
 アナが、目を潤ませた。
「大丈夫。あのお孫さんが、付いているんだから」
 義助が、断言した。
 最後に、三人が、院長先生に正対した。
「至福の時を過ごせました」
 三人が、口を揃えて謝意を伝えた。
「ありがとう」
 院長先生が、優しく声をかけた。
「障害は、世界平和の切り札です」
 アナが、豪語した。
 三人の家族が、迎えに来た。
「お母さ~ん」
 アナが、母に抱きついた。
 障害病棟が、その幕を閉じた。

 翌日の夕方、アナ、カズ、義助が、地元のレストランで打ち上げをした。
「東京オリパラは、歴史に残る大会になったね」
 アナが、嬉しそうに言った。
「世界中の人々が、尽力してくれた」
 義助が、満足そうに微笑んだ。
「世界中のみんなへの恩返しの為に、何かやろうよ!」
 アナが、期待を胸に、目を輝かせて、提案した。
「そうだね!」
「みんなチームだ!」
 三人が、意気投合した。

 東京オリパラの為に身骨を砕いた障害児がいたことは、忘れない――。




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