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第七章 第一話


 アナ、カズ、義助は、東京オリパラを通じて、〈チーム〉と言うものを強く感じた。本当に困った時に、頼りになったのも、心を支えてくれたのも、チームだった。
「チームの為に何かしたいな」
 義助が、しみじみと言った。
「じゃ、〈チーム五輪〉と言うのは?」
 アナが、提案した。
「チーム五輪?」
「オリパラって、選手同士が戦うじゃん。でも、チームが、各選手を支えている。だから、そのチームにも、もっと日の目を見せることができないかしら?」
「チーム五輪か……面白そうだね」
「パラリンピックで言うと、マラソンの伴走者とか、水泳のタッピングとかが、チームってことだよね。オリパラは、今でも、全てチーム戦じゃない?」
 カズが、冷静にアナに意見した。
「もっと多くの、義肢装具士とか、メーカーとかも含めて……まるで、F1のような……それで、高速水着やマラソンの厚底靴なんかも、認めちゃうの」
「F1か……」
 義助も、色々思案した。
「重要なのは、それらを駆使して、健常者と障害者が、同じ舞台で、ぶつかり合うの。オリパラでは、そう言うのが、不正とみなされるけど、チーム五輪では、OK。障害を克服する為の努力が、実を結ぶの」
「ほぅ!」
「東京オリパラが、延期されて以来、ずっと考えていたことなんだ。あの一年を無駄にしたくなくて……東京オリパラの延期は、世界中の選手、選手のスタッフ、大会スタッフ、ボランティアなど多くの支えがあって、決まったよね。その時、チームの有難味を痛感した。あの一年は、みんなにとって、何を意味したのか。何かを学んだのか……その一つの答えが、チーム五輪なの。だから、チームで戦いたいんだ。いずれは、世界規模のチーム五輪大会を開催したい」
「アナって、素晴らしい」
「でしょう?」
 アナが、得意げに笑った。こういう時のアナは、鬼の首でも取ったように、満面の笑みになる。カズと義助は、アナのその表情が、とても好きだった。
「ハッハハハハ」
 こうして、チーム五輪が、産声を上げた。なぜ、チーム五輪が生まれることになったか――それこそが、新型コロナウイルスとの戦いの結論だった。世界の選手は、負けなかった。それどころか、新型コロナウイルスに打ち勝ち、とても大事なものを手に入れた。転機は、新型コロナウイルスだった。新型コロナウイルスを封じ込めた世界の人々もまた、チームの一員だった。世界は、一つになったのだ。

 後日、アナ、カズ、義助が、近所の喫茶店で、会議を開いた。
「さあ、チーム五輪の始動だ」
 アナが、気合いを入れた。
「いよいよだね」
 義助も、興奮気味だった。
「僕も、力になりたい」
 カズも、賛同してくれた。
 五輪SNSのアナの投稿:〈この度、〈チーム五輪〉と言うものを始めることにしまして……〉
 アナが、チーム五輪のことを投稿した。
 五輪SNSの投稿:〈素晴らしい!〉〈頑張って!〉
 五輪SNSには、多くの応援の投稿が、書き込まれた。
 それから、アナ、カズ、義助が、チーム五輪の実現の為に奮闘した。
 最初は、必ずしも順風満帆と言う感じではなかった。
「そんなもの、できる訳ないだろう」
 初めは、取り合ってもらえなかった。
「悔しい……」
 アナが、思わず涙した。
「前に進もう」
 義助が、アナを鼓舞した。
「それでも、負けないから」
 アナは、悔し泣きする日々が続いたが、真剣だった。
 三人は、チーム五輪の実現の為に努力を惜しまなかった。
 最高の援軍は、五輪SNSに存在していた。
 五輪SNSの投稿:〈チーム五輪、どうなっている? 日本で無理なら、僕の国でやろうか?〉
 五輪SNSのアナの投稿:〈ありがとう。でも、日本でやりたいから〉
 五輪SNSの投稿:〈分かった。応援しているから。僕だけじゃない。世界中の全ての人々が、味方だと思って良い〉
「嬉しいわ……」
 アナが、涙を流して喜んだ。
「この五輪SNSだって、元はと言えば、アナの提案だったんだから。大丈夫。努力は報われる」
 義助が、アナを励ました。
「ありがとう……」
 アナが、義助の胸で泣いた。こういう時に頼れるのは、やっぱり友だった。アナは、その有難味を痛感していた。


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