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第七章 第二話


 義助が、支援学校の運動場で、自主練を再開していた。
「一緒に練習して良いかい?」
 アナとカズが、義助に聞いた。
「もちろん!」
 義助が、嬉しそうに返事をした。
 アナ、カズ、義助が、仲良く自主練をしていた。カズは、カズの妹とともに、水泳の練習を再開した。しかし、アナは、水泳の練習をしなかった。
「チーム五輪は、健常者も参加できるけど、妹さんは、出場しないの?」
 アナが、カズに質問した。
「僕のサポートが、楽しいんだって」
 カズの妹は、カズを盛り立てることに注力していた。そして、それが、カズの妹にとって、最高の喜びになっていた。とても慈愛に満ちた、素晴らしい妹だった。
「良くできた妹!」
 アナが、お茶目に言った。
「ハッハハハハ」
 五輪SNSの投稿:〈僕らの国も、チーム五輪に向けて、練習を開始したよ~〉
「嬉しいわ!」
 アナが、興奮気味に言った。
 五輪SNSの投稿:〈私の国では、健常者と障害者が、一緒に練習しているんだ!〉
「素晴らしいわ!」
 アナが、感嘆の声を上げた。
 事実、健常者と障害者が、垣根なく一緒に練習できるのが、チーム五輪の真骨頂だった。
「五輪SNSのおかげだね」
 義助が、嬉しそうに言った。
「東京オリパラのおかげよ」
 アナが、珍しく謙遜した。
 答えは、その両方だった。アナ、カズ、義助の頑張りが、この好循環を生んでいたのだ。
 それからも、三人は、自主練に精を出した。
「ダメだ、これじゃ……」
 義助が、練習中に、弱音を吐いた。健常者との戦いは、障害者には、大きなハードルだった。
 五輪SNSの投稿:〈諦めるな。僕たちが、付いている。君が諦めない限り、僕らは、サポートし続ける。チームなんだから〉
 義助へのエールが届いた。義助が、投稿者の名前を見て、涙を流した。それは、義助の母からの投稿だった。
「嬉しいな」
 義助が、素直に喜んだ。以降、義助が、自主練のペースを上げた。

 昔、アナが小学校の支援学級に通っていた頃。アナが、一人で、下校していた。
「障害児が、うぜえんだよ!」
 普通学級の生徒が、アナを取り囲んで、水鉄砲で襲撃した。
 偏見だった。
「止めてください!」
 アナが、必死に抵抗した。それでも、輩は、手を緩めなかった。
「何をしている!」
 助っ人が、現れた。
 義助だった。
 義助が、果敢にも輩に向かって行った。劣勢だったが、義助が、必死に応戦した。輩の足にしがみ付き、アナへの攻撃を許さなかった。
「飽きた」
 輩が、去って行った。
「大丈夫か、アナ?」
「ありがとう……」
 アナが、ホッとして、涙を流した。
 義助が、優しくアナを抱いた。
 以来、アナと義助は、密かにお付き合いを続けていた。
 それから、十年ほどが経ち、偏見のない共生社会が実現しつつあった。まさに、アナ、カズ、義助の功績だった。三人の努力の結晶が、その共生社会を作り上げていた。


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