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第七章 第三話
アナ、カズ、義助が、隣県の支援学校へ慰問に行った。三人が、チーム五輪の紹介と狙いなどを訴えた。支援学校の生徒は、真剣に話を聞いていた。
質疑応答の時間になった。
「健常者対障害者で、対戦しても良いかも」
生徒が、提案した。
「いえ、両者の間に線引きなどありません。同じ舞台で……それが、障害者の、健常者の希望です」
アナが、優しく答えた。
「頑張ってください」
「応援しています」
「僕たちの希望ですから」
生徒が、口々に声をかけた。
「チーム五輪大会は、どこで開催する予定ですか?」
生徒が、質問した。
「第一回は、東京で腰を据えて行いたい。その後は、被災した国が良いな。ウイルスは元より、自然災害、戦争などで被害を被った国でも行いたい。チーム五輪が、その国の人々の力になれると思うから」
アナが、答えた。
「素晴らしいわ!」
「障害は、世界平和の切り札です」
アナが、自信を持って、まとめ上げた。
支援学校の卒業式の日が来た。支援学校の体育館には、パイプ椅子が並べられて、卒業生、在校生、父兄、先生が、整列していた。その中に、アナ、カズ、義助の姿もあった。
「この一年、本当に色々あったね」
アナが、ヒソヒソと、話をしていた。
「パラスポーツをしていて、本当に良かった」
カズが、しみじみと言った。
「義助のおかげね」
「それほどでも~」
義助が、照れ笑いを浮かべた。
「ハッハハハハ」
三人が、思わず笑ってしまった。東京オリパラと障害病棟は、三人の素晴らしい思い出になった。
新型コロナウイルスで亡くなった、アナの祖父の法要が、アナの自宅で執り行われた。アナの父が、施主を務めて、参列者に挨拶をしていた。
「アナ、来たよ」
カズと義助も、参列した。
「ありがとうね。お祖父ちゃんも、喜んでいるわ」
アナが、カズと義助を喜んで迎え入れた。
カズと義助は、アナの祖父に線香を上げて、遺影の前で、手を合わせた。静かな時が流れた。
「多くの犠牲があった」
義助が、しみじみと言った。
「そうね……」
アナが、感慨深そうに頷いた。
新型コロナウイルスは、多くの人命を奪った。それは、何年経っても、忘れることはないだろう。
法要の後、アナ、カズ、義助が、アナの祖父のお墓参りに行って、手を合わせた。
(チーム五輪、出場しなくて良いよね。勝てそうもないから。裏方に徹するわ)
アナが、静かに祈った。水泳は、もうしないことに決めた。
「なに祈ったんだい?」
義助が、アナに問うた。
「私の健康よ!」
「ハッハハハハ」
アナのコメディエンヌぶりは、まだまだ健在だった。アナは、こんな時でも、笑いを提供した。その笑顔にどれだけ救われたことか。カズと義助は、アナに心底感謝した。
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