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第七章 第五話


 第一回チーム五輪大会の開会式が、開催された。
 健常者と障害者が、同じ舞台に立つ、圧巻の開会式だった。
 開会式の後、アナが、JOCの委員の視察の応対をしていた。
「よく一年で実現できましたね」
 JOCの委員が、驚きを持って、聞いた。
「五輪SNSのおかげです。それに、東京オリパラの施設をそのまま使えましたから」
 事実、五輪SNSの威力は、絶大だった。実は、五輪SNSを介して、世界中の関係者が、IOCとJOCにチーム五輪の開催を直訴してくれていたのだ。
「三人の喜ぶ顔が、何よりのご褒美だから」
 世界中の関係者が、アナ、カズ、義助の笑顔を見て、大満足していた。
「大会スタッフ、ボランティア、観客の皆さんも、チームの一員なんですよ」
 アナが、得意げに言った。
「チーム五輪と言うけど、オリパラとどこが違うの?」
「それが、結構違うんです」
 アナが、不敵に笑った。
 アナとJOCの委員が、各競技会場を回った。
 チーム五輪では、高速水着やマラソンの厚底シューズを凌駕する技術が、開発されていた。
「これらは、全て、選手のチームが、試行錯誤して、作ったものなんです」
 アナが、自慢げに伝えた。
「色々考えられていますね」
 アナとJOCの委員が、マラソン会場に行った。そこでは、健常者に混じって、視覚障害者が、参戦していた。視覚障害者は、二足走行伴走ロボットと一緒に走っていた。二足走行伴走ロボットは、AI機能を有していて、選手の耳元で、選手のコーチの声を伝えてくれた。
「頑張れ、一人じゃないから!」
 選手が、辛くなると、自動的に判断して、応援の声を再生してくれた。また、二足走行伴走ロボットは、完璧なペースメーカーでもあった。
「気兼ねなく練習できると好評なんですよ。上手く走れない時期もありますから」
 アナが、誇らしげに言った。
「人の温かみを欲することもありませんか?」
「二足走行伴走ロボットは、人の温かみを持っているんです。練習中も、ずっと一緒に走って、全ての情報を把握していますし。選手の盟友ですよ」
「素晴らしい……」
 アナとJOC委員が、自転車競技会場に行った。
「あの自転車、自動運転なんです」
 アナが、説明した。
「それは、やり過ぎじゃありませんか?」
「規定外ではありません。重度の障害者でも、参加できますし、これは、チーム戦ですから」
 これこそが、チーム五輪の醍醐味だった。
「ああ、惜しい!」
 アナが、歓声を上げた。
 自転車競技では、重度の障害者が、健常者を後一歩のところまで追い詰めていた。
「良い勝負ですね」
 JOCの委員も、勝負の行方に注目していた。
 アナとJOCの委員が、水泳会場に行った。
「伴泳者と言うものを開発したんです」
「誰かが、一緒に泳ぐんですか?」
「その通りです。発達障害の選手が、安心できるように、です」
 プールでは、発達障害のカズの為に、カズの妹が、伴泳者を務めていた。
「本当にありがとうね」
 カズが、カズの妹に改めてお礼を言った。
「お兄ちゃんの為だもん」
 カズの妹が、笑顔を見せた。
 カズの妹は、幼い頃からずっと水泳教室で、カズの為に一緒に泳いでいた。
「チーム五輪ですから、科学技術だけでなく、人がサポートをすることもあるんです」
 アナが、胸を張った。
「人のサポートですか……」
 JOCの委員が、競技に見入っていた。
 アナとJOCの委員が、陸上競技場に行った。
 笑美が、陸上競技に臨んでいた。
「聴覚障害者の為に、観客が、手話を覚えてくれるんです。『がんばれ~』『もう少し~』って」
 アナが、JOCの委員に伝えた。
「なるほど。観客が、サポートになってくれるんですね」
「最高のチームです」
 笑美が、一位でフィニッシュした。
 会場の全ての観客が、『おめでとう』と、手話で祝福した。何万人もの人々の手話は、圧巻だった。
 義助が、走り幅跳びに出走するところだった。
「義助、頑張れ~!」
 アナが、大きな声援を送った。
 義助が、会場の拍手に合わせて、助走を始めた。
 ぐんぐん加速した。
 跳躍。
 一瞬の静寂。
 一位だった。
 会場から、大きな拍手がわいた。
 義助は、障害者ながら、健常者を抑えて、見事優勝した。
「この勝利を父と母、アナ、カズ、それに世界中のチームに捧げたい。ついに、障害者が、健常者に勝ったんだ! お母さん、素晴らしい義足をありがとう。お父さんとの約束、果たせたね。僕は、最高のパラアスリートになれたんだ!」
 義助が、表彰台で、堂々とスピーチした。
「パラアスリート、超えてるよ」
 ルドルフも、大きな拍手を送っていた。
 アナとJOCの委員が、スピーチの後、義助の元を訪れた。
「金メダル、掛けていいよ」
 義助が、アナに告げた。
「良いの?」
「ああ」
 義助が、アナに金メダルを掛けた。いつかの約束を果たしたのだ。
「重いわ!」
 アナが、感嘆の声を上げた。
「義助くんのお父さんは、素晴らしい選手だった」
 JOCの委員が、義助の父のことを覚えていて、義助に声をかけてくれた。
「ご存知なんですか?」
「もちろん。最高のアスリートだったよ」
「はい」
 義助が、男泣きをした。義助は、義助の父の為に走って来た。そして、最高のアスリートになった。緊張の糸が、切れたように、涙が、溢れ出て来た。アナは、そんな義助を優しく見守った。
 そうして、チーム五輪大会の全ての競技が、無事終了した。
 多くの競技で、健常者が、勝利した。
「この先、健常者を脅かす存在になってもらいたい」
 健常者が、希望を述べた。
「言われなくても、そのつもりです」
 義助が、お茶目に答えた。
「ハッハハハハ」
 第一回チーム五輪大会の閉会式が、開催された。
 健常者と障害者の代表が、マイクの前に進み出た。
「障害者には負けない。それが、障害者の為になるから」
 健常者の代表が、きっぱりと言った。
「ありがとう」
 障害者の代表が、お礼を言った。短いやり取りだったが、両者の優しさに溢れていた。とても充実した時間を過ごすことができた。
 アナとJOCの委員が、大会の後、双子の重度の障害者に会った。
「楽しかったです。僕たちも、出られたら良いな」
 双子の障害者が、抱負を語った。
「そうですね。重度の障害者でも、チーム五輪なら、健常者にだって負けませんから」
 アナが、双子の障害者を鼓舞した。

 閉会式の夜、アナ、カズ、義助が、近所のバーで打ち上げをした。
「思えば、あの東京オリパラが、転機だった」
 義助が、思い出したように言った。
「あの新型コロナウイルスのね」
 アナが、祖父を思い出していた。
「苦労した分、幸せになれた気がする」
「チーム五輪、毎年開催できないかな?」
 カズが、提案した。
「どうして、オリパラは、四年に一度なんだろう?」
 アナが、不思議に思った。
「待って、調べる」
 カズが、スマホで検索した。「日本オリンピック委員会のサイトによると……最も有力なのは、古代ギリシア人が太陰歴を使っていたからという説です。現代、一般的に使われている太陽暦の八年が、太陰暦の八年と三カ月にほぼ等しいことから、八年という周期は古代ギリシア人にとって重要な意味をもっていたのです。暦を司るのは神官であり八年ごとに祭典が開かれるようになり、後に半分の四年周期となりました。太陰暦では四十九カ月と五十カ月間隔を交互にして開催されていたようです……だって」
「そんな理由で?」
 アナが、驚いた。
「スポンサーとか、予選の都合とか、選手の予算とか、そう言う理由だと思っていた」
 義助が、意見を述べた。
「だったら、毎年でも開きたいね。より多くの選手に出場の機会を与えてあげたいから」
「よし、毎年にしよう!」
「チーム五輪、どんな風に進化して行くんだろう。楽しみだわ」
 アナ、カズ、義助が、新たな挑戦を始めることを誓い合った。


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