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第七章 第六話
第十五回チーム五輪大会が、開催されることになった。チーム五輪は、毎年行われていた。今回は、アフリカの戦地で開催した。
この国には、足を失い、義足を着用している人が、とても多かった。その為、チーム五輪大会には、多くの寄付金が集まり、義足の人々に競技用の義足が、提供された。
「とても有難いことだね」
アナが、しみじみと言った。
「ありがとうございます。天国の家族も喜ぶと思います」
義足の少年が、嬉しそうにお礼を言った。義足の少年は、戦争で家族を亡くしていた。その家族の為に走ることを決意した。
「世界中の人々が、チーム五輪で、僕たちの姿を見てくれることで、現状を伝えることができるから」
義足の少年が、展望を語った。
「昔から、家族で支え合ってきたし、人を雇うお金がないから」
この国の義足の人々にとっては、チームのメンバーは、家族だけだった。
「それこそ、チーム五輪の真骨頂だと思います。家族と感動を共有できますから」
アナが、きっぱりと言い切った。
とは言え、義足の人々には、世界中のチームも、力を貸してくれた。そうして、義足の人々は、健常者に向かって行った。
アナ、カズ、義助は、この大会にも、尽力していた。アナが、運営チームを指揮していて、主に広報を担当していた。義助とカズは、未だ現役で、大会に出場していた。義助は、走り幅跳びに出場して、予選を通過した。カズは、カズの妹を伴泳者として、水泳に出場して、予選を通過した。
笑美の手話:〈今回も、聴覚障害者の陸上やるよ~!〉
笑美が、聴覚障害者の陸上競技の指導者として、奮闘していた。
アナの手話:〈笑美、聴覚障害者の陸上、評判良いよ。観客の皆さんも、どんどん手話を覚えてくれている〉
アナが、嬉しそうに伝えた。
笑美の手話:〈街中でも、手話が通じるようになりました〉
アナの手話:〈みんな、覚えてくれたんだね〉
笑美の手話:〈チーム五輪とカズさんのおかげです〉
アナの手話:〈まあ、カズ、喜ぶわ!〉
「ハッハハハハ」
この頃は、新型コロナウイルスは、何処吹く風だった。
五輪SNSのメッセージ:〈チーム五輪、素晴らしいアイデアだね〉
久しぶりに李武志から、メッセージが届いた。
義助のメッセージ:〈武志のおかげだよ〉
実は、李武志は、あれ以来、パラスポーツを引退して、新型コロナウイルスの研究をしていた。そして、新型コロナウイルスの特効薬を開発した。
「兄の仇を討つんだ!」
李武志の執念だった。
泳子が、再び、心臓発作を起こした。泳子が、総合病院に担ぎ込まれた。一刻の猶予もなかった。
その時、「バリバリバリ」と、大きな音がした。ヘリコプターだった。一台のドクターヘリが、総合病院の屋上に降り立った。中から、一人の女性が降りて来た。
「任せておきなさい」
ルドルフの母だった。
ルドルフの母は、緊急来日していて、そのまま手術室に直行して、泳子の心臓の根治手術を行った。
ルドルフの母は、新型コロナウイルスが猛威を振るう中、ドイツに渡って、その対応に奔走していた。
「あの時は、青い光や拍手を受けて、涙が出たわ」
ルドルフの母が、懐かしそうに微笑んだ。
「多くの患者さんを救ったんですね」
アナが、誇らしげに声をかけた。
「でも、全ての人を救えなかった」
「それは、仕方のないことです」
「全員、救いたかった!」
しばしの沈黙。
「実は、ルドルフ、泳子ちゃんのことが好きだったのよ」
ルドルフの母が、場の空気を変えようと、微笑みながら言った。
「ハッハハハハ」
みんなが笑った。
「やっぱり障害児の笑顔が、癒されるわ」
ルドルフの母が、満足そうに笑った。
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