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第七章 第七話
第十五回チーム五輪大会の当日になった。
開会式が、滞りなく開催された。
「今日は、よろしく頼むよ」
IOC国際オリンピック委員会の会長が、視察に来て、アナに声をかけた。
「お任せください」
アナが、案内役を仰せつかった。
アナとIOCの会長が、会場内を巡った。
「知的障害者の方は、居ないんですね」
IOCの会長が、不思議そうに聞いた。
「居ますよ」
「あ、競技に参加されて居ますか?」
「いえ、あそこに」
アナが指を指した方向には、大会スタッフの姿があった。「ボランティアをしてくれているんです」
「ボランティアが、務まるんですか?」
「もちろん。知的障害者は、運動能力が、それほど変わらない。だから、ボランティアスタッフを申し出てくれたんです」
「素晴らしいですね」
「出来ないことに挑戦するから、意味があるんです。選手もボランティアもね。これが、チーム五輪です」
「素晴らしい」
IOCの会長が、舌を巻いた。
この頃のチーム五輪には、目玉技術と言われるものがあった。最新技術の切磋琢磨の中で、秀逸な技術が、開発されたのだ。それぞれの技術にドラマがあった。
アナとIOCの会長が、バスケットボール会場に行った。そこでは、健常者と車椅子に乗った障害者が、対戦をしていた。
「凄い対戦ですね」
IOCの会長が、驚いていた。
「あの車椅子、リモコンで、ゲームのように操作しているんですよ」
「ちょっと、道徳観を疑いませんか?」
IOCの会長が、少し驚いて、意見を述べた。
「車椅子に乗っているのも、リモコン操作をしているのも、重度の障害者です。双子なんですよ。第一回のチーム五輪大会を見に来てくれて、それから、猛練習して、この大会に臨みました。彼らの努力の結晶なんです。だから、素晴らしいチームに恵まれた。彼らのように、多くの障害者が、切磋琢磨して、この日を迎えました。何より、彼らは、生き甲斐を感じているんです。僕たちにもできる、と。何人も、その機会を奪う権利はない」
「凄い……」
その時、重度の障害者が、得点を決めた。
「ナイスシュート!」
観客だけでなく、相手の健常者の選手が、試合中に温かい拍手を送った。
「この一体感が、チーム五輪ならではなんです。健常者の選手が、真剣勝負をして、負けることを期待しているんです。それが、誇りであるように」
アナが、解説した。
「……」
IOCの会長が、言葉を失った。
アナとIOCの会長が、陸上競技場に行った。
義助が、走り幅跳びの競技を終えて、休憩していた。義助は、暫定一位だった。
「おおっ!」
その時、大きな歓声が起きた。最後の選手が、登場したのだ。その選手は、地元の選手で、両足が義足だった。そして、頭上にドローンを携えていた。走り幅跳びで、ドローンを付けて、跳躍するのだ。
その選手が、ドローンのスイッチを入れて、助走を始めた。
会場のボルテージが上がった。
ドローンが、唸った。
跳躍。
会場から、喝采が起きた。
ドローンの選手が、一位になった。
「まだ、ずっと飛べない」
ドローンの選手が、悔しそうにスピーチをした。
「く、悔しい。だけど、楽しい」
義助が、ドローンの選手に負けて、コメントを出した。
「ふふふ……」
ルドルフが、遠くの方で、ほくそ笑んでいた。ドローンの選手は、実は、ルドルフの教え子だった。
「いずれは、チーム五輪の走り幅跳びの記録が、キロ単位になるでしょう」
アナが、IOCの会長に言った。
「もはやスポーツを超えていますね」
「それが、実現されれば、空飛ぶ車のベースにできるでしょう」
「なるほど!」
「それこそが、チーム五輪の魅力の一つなんです。観客は、それも楽しみにしているんです。将来的には、健常者も、ドローン使うかも知れません」
「それじゃ、何でもありじゃないですか!」
「何でもありなんです。それが、チーム五輪なんです。世界の最先端科学技術は、チーム五輪から生まれている、そう言う大会にしたいんです」
「NASAみたいなものですね」
「今でも、障害に関することは、群を抜いています。障害者の生きやすい社会の実現に一役買っているんです。そうして、障害者と健常者が、分け隔てなく、同じ舞台で、競い合うことで、対等な関係を築けると思っています。それが、共生社会の礎になるんです」
「チーム五輪って、なんか凄い」
「今頃気付きましたか」
「ハッハハハハ」
「それと……やりすぎにならない大きな理由があるんです」
アナが、遠くを見つめて、切り出した。
「何です?」
「選手のプライドです。本当は、サポート無しで、健常者に勝ちたい。だから、障害者のサポートは、必要最小限なんです。健常者も、ほとんど科学技術に頼らない。とにかく、フェアなんです」
「だから、みんな応援するんですね」
「魅力的な選手たちです」
「福祉を変えるって、こう言うことなんですね」
「押し付けるのではなく、目を向けてもらうことが、全てですね。知ってもらえれば、味方になってもらう自信があります」
アナとIOCの会長が、プールに行った。
ちょうどカズの順番が来ていた。
「本選は、一人で泳ぐよ」
カズが、カズの妹に告げた。
「大丈夫?」
「やってみる」
カズが、位置に着いて、プールに飛び込んだ。
カズが、溺れそうになった。
それでも、パニックにならなかった。
無事ゴールした。
「清々しい気分」
カズは、ビリだったが、爽快感に浸っていた。
「よくやった、カズ!」
妻の泳子が、大きな声で叫んだ。二人は、見事ゴールインしていたのだ。泳子は、チーム五輪大会には、出場せず、夫の応援に徹した。
「カズ、良かった……」
アナが、感無量だった。チーム五輪は、障害者を成長させることができていた。
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