花
第二話
商店街のはずれには、小さくて古い小学校が、ひっそりと建っていた。小学校には、普通学級が各学年三クラスあり、支援学級が一クラスあった。支援学級の教室は、小学校の校舎の片隅にあり、普通学級の生徒の声も届かなかった。木々のそよぎが、聞こえるのみだった。
小学校の体育館では、入学式が行われていた。アナと妹子が、新入生として、入学式に参列した。妹子は、健常児なので、普通学級だったが、アナは、支援学級だった。アナは、新入生の列の端の方の席にちょこんと座っていた。
新たな出会いもあった。入学式の時に、アナの隣の席には、カズが、座っていた。カズは、発達障害と軽度の知的障害があって、同じ支援学級の生徒だった。アナとカズは、すぐに仲良くなった。
支援学級の教室裏には、日が当たって、ぽかぽか暖かい場所があった。放課後は、音楽部の生徒の歌声が聞こえる癒しの場だった。支援学級の生徒は、よくそこで、愛を語らった。
カズが、アナを支援学級の教室裏に呼んだ。
「アナ、付き合って欲しいんだ」
カズが、入学早々、アナに告白した。
「それは……無理なんだ」
「どうして?」
「どうしてもだ」
アナは、頑なに交際を拒否した。アナは、その理由を語らなかった。カズは、がっかりとした。
「けど、いい友達になりたい」
アナが、微笑んだ。
「それなら」
カズも、嬉しそうに返事をした。以降、アナとカズは、良好な友人関係を築いて行った。障害児同士、心置きなく、一緒の時間を過ごした。
「本当に仲良しなんだから」
妹子が、羨ましそうに言った。その様子は、妹子も嫉妬するほどだった。障害児は、障害児同士が、やっぱり落ち着く。それは、今の世の中では、仕方のないことかも知れない。
アナと妹子の十歳の誕生日を迎えて、姉妹の自宅で、誕生会をした。姉妹の母が、バースデーケーキを用意してくれた。部屋を暗くして、アナと妹子が、バースデーケーキのロウソクの火を吹き消した。
「ハッピーバースデー!」
アナと妹子の大きな声が、響いた。二人は、ケーキを頬張りながら、談笑した。とても楽しい誕生会になった。
「もう十歳か……」
アナが、しみじみと言った。いつまで持つか、そう思って、口を閉じた。
「盛り上がって行こう!」
妹子が、大きな声をあげて、場を盛り上げた。
「ハッハハハハ」
アナと妹子の笑い声が、絶えなかった。
その日の晩、アナが、早くに寝入った。
「妹子に託して見ますか?」
「そうだな」
姉妹の父と母が、頃合いを見計らい、妹子を自宅の食堂に呼んだ。
「アナは、余命十年なんだ」
姉妹の父が、妹子にアナの余命が十年であることを伝えた。妹子は、いつも、一番近くでアナを見てきた。姉妹の父と母は、妹子を頼りにしていた。だから、妹子に言った。
「アナには、言えない……全力で、アナを支える。アナを幸せにしたい」
妹子が、決意を固めた。その目には、涙が、浮かんでいた。姉妹の父と母も、アナには言わない方針にした。そうして、姉妹の家族の静かな闘いは始まった。
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