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第四話


 そんな中、アナと妹子の十二歳の誕生日の日を迎えた。アナと妹子は、自宅で、誕生会を開いた。姉妹の他に、カズも招待しょうたいされた。
 誕生会当日、カズが、ひまわりの花束はなたばを持って来て、姉妹に贈った。

ひまわりの花束
美味おいしそうな種!」  アナが、開口一番かいこういちばん、嬉しそうにさけんだ。 「本当に食べることばっかりだな」  カズが、突っ込みを入れた。 「ハッハハハハ」 「あら、ひまわりの種は、栄養えいようがたっぷりなのよ」 「ああ、そうかい」 「それに、ひまわりは、格別かくべつなの」 「どうして?」 「お母さんの誕生花なの。だから、私と妹子が産まれた時、お母さんの病室に咲き誇っていた。みんなのお祝いでね」 「そうだったんだ〜」  アナと妹子にとっては、ひまわりは、特別な花だった。だから、カズが、ひまわりを選んでくれたことに感謝かんしゃした。カズは、本当に気のく良い男の子だった。  一方、カズは、アナのたくましさに微笑んだ。アナは、本当に健気で、強かった。カズも、障害児なので、その気持ちは、理解りかいできた。とにかく強くならなくては、やって行けないのだ。  妹子も、アナとカズの気持ちを理解していた。だから、辛かった。アナの余命は、もういくばくもないのだ。しかし、この誕生会を含めて、アナと接する時は、いつも心底しんそこ楽しかった。笑顔の絶えない時間を共有きょうゆうできた。妹子は、アナの余命が十年と言うことを忘れかけていた。しかし、の手は、ひたひたと、アナにしのっていた。  アナが、支援学級の授業を受けている時に、机にした。支援学級の先生が、「どうした、アナ?」と、アナに声をかけた。アナは、苦しそうに、椅子からころげ落ちた。カズが、「アナ! アナ!」と、アナを抱き起こした。アナの意識いしきは、遠のくばかりだった。  心臓発作だった。  カズが、事務室じむしつに走って救急車を呼んでもらって、保健室に走って保健の先生を呼んだ。その間、支援学級の先生が、アナを介抱かいほうした。アナが、救急車で、病院に搬送はんそうされた。
救急外来
 姉妹の父母、妹子が、病院にけつけた。アナは、救急処置きゅうきゅうしょちを受けて、一命いちめいをとりとめた。 「よかった……」妹子が、安堵あんどした。  アナが、入院することになった。  後日、妹子とカズが、お見舞みまいに来てくれた。 「本当に美味しいわ」  アナが、誕生日にカズからもらったひまわりの種をぽりぽり食べていた。 「贈り甲斐があるよ」 「ハッハハハハ」  アナは、病室のベッドで、楽しそうに過ごしていた。妹子とカズは、そんなアナの姿を見て、ホッとした。アナは、本当に元気だった。  しかし、それは、アナのカラ元気だった。事実、アナの体調たいちょうは、かんばしくなく、退院のメドは、ついていなかった。余命十年。ここに来て、それが、現実味げんじつみびて来た。もはや、妹子とカズには、どうすることもできない状態じょうたいだった。  妹子とカズが、お見舞いの帰り道、並んで歩いていた。 「アナのために素晴すばらしいミュージカルを演じよう」  妹子が、実感じっかんを込めて言った。 「ああ、そうだね」  妹子とカズが、固く決意した。  交流会の時間に、妹子が、アナの病状びょうじょうを説明した。無論むろん、余命以外のことを。 「アナのためにやるんだ!」  妹子が、気合いを入れた。 「おう!」  交流会のメンバーも、気合いを入れた。妹子が、アナのけた穴をめるべく、親指姫とツバメの二役を演じることにした。以来、交流会のメンバーが、毎日放課後ほうかごに、ミュージカルのもう練習をした。 「アナが、復活ふっかつするのを祈る。その時は、元の配役はいやくで、公演こうえんしよう」  妹子が、将来のことを考えていた。アナに戻って来てほしい、それが、交流会のメンバーの総意そういだった。誰もが、それを信じていた。ただ、妹子だけは、少し違っていた。余命十年、それを知っていたから。


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  1. https://www.i879.com/products/catalog-detail/categoryId/nh01/productCd/511143
  2. https://tokyobay-mc.jp/nursing_blog/web06_05/

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