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第三話


 良三は、警察の裏を書くつもりで、電車で逃走していた。
「余計なことをするな」
 先輩からの指示が、良三に伝わった。
「はい。昼飯、食っていいですか?」
「番号が、控えられているから、身代金は、使うなよ」
「はい」
 良三は、途中の駅で、アナの所持金で、駅弁を買った。
「何弁当が好き?」
 良三が、アナに聞いた。
「釜飯」
 アナが、答えた。
 良三が、二人の駅弁を買って、アナが、駅弁を美味しそうに食べ始めた。
「旅行みたいだね」
 アナが、朗らかに言った。
「そうだね」
 良三が、アナと仲良くなった。
「俺にも、妹がいてね……ダウン症だった。ちょうどアナと同じ頃、心臓発作を起こして、死んじゃったけど。苦しそうにもがいて、救急車が来たけど、もう手の施しようがなかった……僕は、何もできなかった」
 良三が、妹の亡くなった時のエピソードを語った。
「そうですか」
「妹も、アナと同じように八重歯があった」
「ふ〜ん」
「笑うと目立つよね」
「ふふふ」
 アナは、駅弁を食べるのに夢中だった。
 アナの笑顔が、良三には、心地良かった。

「これ以上、余計なことをするなよ!」
 先輩が、良三に釘を刺した。
 一万円の件で、犯人の方でも、仲間割れが発生していた。
 さらに、良三が、
「このまま捕まるくらいなら、2999万円をダウン症の親の会に寄付する」
 と、言い出した。
「何してんだよ!」
 先輩が、叱責した。
「そんなことしなくていい!」
 黒幕も、声をあげた。

 一方、警察の捜査にも、進展があった。
「この紙幣、誘拐事件のだ……」
 駅の弁当の売店で、身代金の一万円が、見つかった。そこから、足がついた。犯人が、電車で逃走していることが判明。警察は、監視カメラで、アナと良三の姿を追った。

     *

 警察が、良三を追い詰めた。
「アナ、逃げるぞ!」
 良三が、警察の気配を感じて、アナを連れて走った。
「ぐっ!」
 アナが、胸を押さえて、道路にうずくまった。
「どうした、アナ?」
 アナは、返事ができなかった。
 心臓発作だった。
「アナ、生きろ!」
 良三が、本気で、アナの心配をした。
「とにかく逃げろ!」
 先輩が、良三に指示をした。
「目的は、金じゃない! 俺は、お金はいらない。アナを救う!」
 良三が、暴走した。
「何を言っているの?」
「自首して、アナを自由にする」
「正気か?」
「アナをこれ以上不幸にしたくない」
「好きにしろ。分け前はないぞ」
「それで良い!」
「馬鹿野郎! 全ては、アナを救う為じゃないか!」
 黒幕が、怒りをあらわにした。

 良三が、救急車を呼んで、アナを近くの病院に搬送した。
「金ならあります! 2999万円! これで、アナを救ってください!」
 良三は、必死だった。救えなかった妹のことを思い出していた。
 アナが、救急処置を受けた。
 アナの母、担当刑事、警察が、その病院に急いだ。

 警察が、良三を包囲した。
「共犯者がいるんだろう!」
 良三は、本当に警察官に撃ち殺されそうになった。
「そこにいる担当刑事が、仲間だ」
 良三が、思いもよらないことを口走った。
「先輩」とは、現役の担当刑事だったのだ。
「軽蔑します」
 警察官が、呆れて、刑事を捕まえた。
「黒幕の名は言えない」
 良三も担当刑事も、最後まで、黒幕を隠し通そうとした。刑事と良三には、共通点があった。ダウン症の家族を亡くしていたのだ。
「それに何の意味がある」
 担当刑事が、冷静に言った。
「いえ……偶然にしては稀有だと」
 警察官が、自信なさそうに答えた。
「一応、調べろ」
 後任の刑事が、指示を出した。

 黒幕は、最後まで分からなかった。


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