2999

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最終話


 数時間して、アナの処置が、終わった。
 アナが、警察によって、確保された。
「良かった良かった……」
 アナの母が、アナを抱き締めて泣いた。

 2999万円は、没収された。
「これじゃ、アナの根治手術代が払えないじゃないか……!」
 アナの父が、悲しんだ。
「黒幕は、貴方ですね」
 後任の刑事が、冷静に言った。
 アナ、良三の妹、刑事の娘は、同じ時期に近所の親の会に所属していたことがあった。
 三人のダウン症児の家族が、旅行に行ったことがあった。隣県のいちご狩りだった。三人の娘たちが、競うようにして、いちごを頬張った。三人の家族は、とても楽しい時間を過ごした。障害があったことで知り合い、交流を深めた。全ては、ダウン症のおかげだった。
「ぐはっ!」
 アナが、帰りのバスの中で、全てリバースした。
「アナは、食べ過ぎなんだよ」
 アナの父が、アナを介抱した。
「元を取らなくっちゃ」
「ハッハハハハ」
 他のみんなが、思わず笑ってしまった。
「最高の思い出です……はい。首謀者は、私です」
 アナの父が、正直に答えた。アナの父が、逮捕された。黒幕は、アナの父だった。
「先は長くない」
 アナの父は、癌で入院していた。薬物を飲んで、自殺するつもりだった。黒幕のアナの父は、良三に殺害されたことにするつもりだった。良三の分け前は、その為だった。
「本当にそれで良いんですか?」
 良三が、その計画を聞いた時にアナの父に尋ねた。
「命の交換だ。娘となら、本望だよ」
 アナの父が、微笑んだ。
「手荒な真似をして、すまなかった。絶対に見破られたくなかったから……」
 アナの父が、アナに謝った。
「心を鬼にしたのね」
「ああ……」
 アナの父は、身代金の分け前を生命保険をかけて、全て、アナの根治手術に使うつもりだった。担当刑事が、二人を取り逃がして、全て、上手く処理する手筈だった。担当刑事の分け前は、その為だった。
「刑事の娘さんも、ダウン症で、亡くなったんです……みんな、何としても、アナちゃんを救いたかったようです」
 警察官が、報告した。
「娘も、アナと同じ心臓病だった。治せるんだったら、どんな手を使ってでも、治したい」
 担当刑事が、目を真っ赤にして、娘のことを思い出した。
「刑事……」
 後任の刑事が、言葉を失った。

 数時間後、アナが、病室で目を覚ました。
「銀婚式をしたい」
 アナが、無茶なことを言った。
「特別に許可しよう」
 後任の刑事が、静かに告げた。
 アナの父母とアナが、病院の喫茶室に集まって、銀婚式を行なった。
「これ、少ないけど、あげるね。プレゼントを買う暇なかったから」
 アナが、六千円ほどのお金をアナの母に手渡した。
「どうしたの、これ?」
「お金がいっぱいあったから、一枚ポケットに入れておいたの」
 実は、身代金の中から、一枚抜いていたのは、アナだったのだ。良三は、それを知らずに、駅弁を買った。そこから、アナの捜査が進展して、アナは、助けられた。
「お父さんとお母さんの銀婚式のお祝いを買いたかったけど、駅弁買っちゃった……ごめんなさい」
「よくやった!」
「良いことだったの?」
「今回だけはね……最高の銀婚式になった」
「良かった!」

 こうして、良三、担当刑事、アナの父は、逮捕された。
「アナの根治手術は、どうするんだ?」
 アナの父が、良三に言った。
「俺が、働いて、払います」
「そんな猶予はない! アナには、もう会えないかも知れない……」
 アナの父が、途方に暮れた。アナは、延命手術を受けても、そう長くは生きられない状態だった。
「犯罪者の言うことなんて、誰も聞いてくれないかも知れないけど、アナを救いたいんだ!」
 良三が、獄中から、血眼になって、寄付を呼びかけた。
 ニュースを見聞きした人々が、寄付をしてくれた。その額、2999万円。残りは、医薬品メーカーと病院が、負担してくれた。
 アナの根治手術は、成功した。
「人々の善意を侮ってはいけない」
 黒幕のアナの父は、獄中で号泣したと言う。

 数年後、元気になったアナが、アナの父の出所を出迎えた。
「お父さんにもらった命、大切に使います」
 アナは、全ての事情を聞いたが、父に対する敬意と愛情を失わなかった。
「アナ……」
 アナの父が、アナを抱き締めて号泣した。

 さらに数年後、アナの父が、癌で亡くなった。
「アナは、生涯かけて守りますから」
 良三が、約束した。
「頼んだ……」
 アナの父は、笑顔で逝った。
「ありがとうね、良三」
 アナが、お礼を言った。
「お父さんが、命がけで守ろうとしたアナだもん。幸せにしなければ、バチが当たるよ」
 良三は、出所後、懸命に働いて、アナの根治手術の費用を返そうとした。だが、寄付してくれた人々も、医薬品メーカーも、病院も、「アナの為だから」と、受け取ろうとしなかった。良三は、そのお金をダウン症児の為に寄付した。三十年かかった。
 今は、妻のアナを支えている。二人の子供に恵まれた。貧しいながらも、笑顔の絶えない家庭を築いた。
「人生、これで良いんだ」





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