二万人の裁判員

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第五話


 午後、評議室で、評議が、再開された。
「あいつが犯人に決まっている」
 真島が、相変わらず、強気に言った。
「5134」
 外国人妻が、唐突に言った。
「何ですか?」
 裁判官が、外国人妻に聞いた。
「真島さんの車のナンバー。違いますか?」
「その通りです」
 真子が、代わりに答えた。
「どうして、それを……?」
 真島が、外国人妻に対して、少し狼狽した。
「ネットに出ている」
 外国人妻が、答えた。
 ネットに、ドライブレコーダーの映像が、配信されていたのだ。裁判官と裁判員が、評議室で、ネットの映像を見た。真島が、間違いなく、その車両を運転していた。真島の隣には、女性が乗っていた。被告人が、審理中に証言した女に似ていた。つまり、この女が、覚せい剤の運び屋の可能性が高かった。
「誰よ、この女!」
 真子が、真島を追求した。
「秘書だよ」
「秘書なんている身分じゃないでしょ!」
「出張だよ」
「聞いてない。その時間は、内勤だって、言ったじゃない!」
「この女が……」
「こいつに死刑を求刑します!」
 真子が、立ち上がって、真島を指差して豪語した。
「本当に、真島さんなんですか?」
 裁判官も、真島に聞いた。
 それから、真子を中心として、真島への追求が、始まった。評議室が、法廷のようになった。
「どういう関係なのよ!」
 真子が、検察官のように真島を追求した。
「ヒッチハイクだよ」
 真島が、苦し紛れに嘘をついた。
「魔が差すことだって、ありますよ」
 山田が、ポツリと言って、真島の肩を持った。
「何とか言いなさいよ!」
 真子は、執拗に追求を続けた。
「私が、やりました……」
 数十分後、真島が、白状した。
「貴方が、主犯ですか?」
 アナが、真島に質問した。
「……はい」
「違いますよね。被告人の話した女性だったなら、おそらくプロ。車内でも、顔を隠しているし、これ、ウイッグですよね」アナが、鋭い推察をした。
「どうしてそんなことが……?」
 裁判官が、アナに聞いた。
「変だと思ったから、ネットで検索したんです」
 アナが、答えた。
 裁判官が、ネットの情報を確認した。そこには、その女の変装前後の写真が、アップされていた。
「実は……浮気していたんです。地元の居酒屋で出会って、空港から郊外まで送ってくれるだけで良いって……」
 真島が、詳細を語った。
「バカ!」
 真子が、吐き捨てるように言った。
「決定的瞬間だわ」
 外国人妻が、評議をネット配信しながら、呟いた。
「警察、呼んで来ます」
 裁判官が、一人、評議室を退出した。
「終わった……」
 真島が、観念した。
「あら……これって……?」
 アナが、スマホを見ながら、声をあげた。
「どうしたんですか?」
 裁判官が、尋ねた。
「SNSに山田さんが、出ているんです!」
「あ、本当だ」
 真子も、ネットニュースを見た。山田の顔写真が、ネットに多数出ていた。
「公園幼児殺害事件の犯人……?」
 アナが、ネットニュースのコメントを読んで、動揺した。
 裁判官と裁判員が、ネットニュースを確認した。
 警察の公開した犯行の映像も、見ることができた。
 犯人が、公園のトイレに子供を連れて行き、しばらくして出て来た。
「これって、公園の子供の殺害の容疑者……山田さん……?」
 アナが、驚きを隠せなかった。
 評議室が、しばらく凍りついた。
「お前が犯人だろう!」
 真島が、どさくさ紛れに、強気に追求した。
「人のことを言えた義理か!」
 真子が、真島の頭を叩いた。
「双子の弟かも知れない……」
 山田が、言い訳をした。
「異議あり!」
 外国人妻が、手を挙げて叫んだ。
「どうされました?」
 裁判官が、反応した。
「双子なんて、居ないよ」
 外国人妻が、答えた。
 それも、ネットの情報だった。評議室の山田の発言をネットを見ていた人が、否定したのだ。
 その時、警察が、数人、評議室に駆け付けた。
「幼児殺害の容疑で逮捕する」
 警察官が、山田を逮捕した。
「プルルルル」
 アナの携帯電話が鳴った。
「はい」
 アナが、電話に出た。
「赤ちゃん、産まれました!」
 赤川の子供が、無事産まれた。赤川が、赤ちゃんの映像を映し出した。
「おめでとうございま〜す!」
 アナが、複雑な笑顔を見せて答えた。
「評議、今からならリモートで参加できますけど、もう終わりそう?」
 赤川が、アナに聞いた。
「うん、山田さんが、逮捕されて、真島さんが、連行されるところ」
「どう言うこと?」
「色々あってね」
「逮捕します」
 警察官が、真島に手錠をかけて、連行した。
 評議室が、静かになった。
 評議室には、三人の裁判官とアナ、外国人妻、真子が、残っていた。
 残った人で、真島の評議をすることになった。
「求刑は、どうしましょう?」
 裁判官が、三人の裁判員に聞いた。
「休憩は、必要ありません」
 外国人妻が、答えた。
「……では、刑期は、何年にしましょうか?」
「日本に来て、まだ二年です」
 外国人妻が、さらに勘違い。
「刑期です」
「景気は、最悪です」
 外国人妻が、恨み節。
「いや、刑期」
「ああ、主人の誕生日!」
「それはケーキ」
「五年で」
 真子が、業を煮やして、答えた。
「いいえ、二年です」
 外国人妻が、一歩も引かない。
「あの……ここで決めるのは、被告人の刑期なので……」
 裁判官が、申し訳なさそうに言った。山田でもなく、真島でもなく、覚せい剤の事件の被告人の刑期を決めるのだ。
「ああ、無罪でいいでしょう。でも、何の意味もないかも知れないけど、真島の刑期も決めたい」
 真子が、申し出た。
「じゃ、被告人は無罪で、真島さんは二年にしましょうか?」
 アナが、話をまとめた。
「……そうですね」
 裁判官も、納得した。
「やっと通じた」
 外国人妻が、嬉しそうに笑った。
「執行猶予を付けてやってください」
 真子が、伏し目がちに発言した。真島は、ろくでもない男だったが、真子には、情が残っていた。
「そうしましょう」
 裁判官が、受け入れてくれた。
「あのバカ!」
 真子が、涙を流した。
「あ、でも、これじゃ、多数決にならない」
 裁判官が、指摘した。
「赤川さんに参加してもらいましょう」
 アナが、提案した。
「そうしましょう」
「あ、赤川さん。リモート参加してください」
 アナが、赤川に電話をかけて、リモート会議の接続をした。
「ああ、どうも」
 赤川が、リモート参加した。
「今、決を取っているんです。被告人は、無罪で、真島さんは、執行猶予付きの二年でどうでしょう?」
「何が起きているのか……」
「ネット上のアンケートでも、それが、一位です」
 外国人妻が、口添えした。
「じゃ、それで」
 赤川が、賛成した。
「良いんですか?」
 裁判官が、驚いた。
「SNSで、お祝いのコメントいっぱい貰ったんで」
「これでよし」
 アナが、満足そうに微笑んだ。
「ありがとうございました」
 真子が、一堂にお礼を言った。

 三人の裁判官、アナ、外国人妻、真子が、評議室から退出した。
「裁判資料なんかより、ネットの情報が勝る時代が来たのかも知れませんね」
 裁判官が、他の裁判官に呟いた。
「本当ですね」


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