四十九日の入学式
第一話
片田舎のJR駅前の商店街のはずれには、小さくて新しい産婦人科医院があった。アラフォーの妻が、妊婦健診を受けていた。妻は、妊娠をしており、これが、初産だった。健診を終え、医師の診察室に呼ばれた。
「順調ですよ」
「良かった」
「双子ですね、一卵性双生児」
「双子っち!」
妻は、大いに喜んだ。
「出生前の検査はしますか?」
「はい、一応」
妻は、アラフォーと言うこともあり、夫と相談して、出生前の検査をすることに決めていた。
数日後、妻は、出生前の検査を受けた。検査結果が出るまでは、眠れない日々を過ごした。
後日、検査結果が出た。妻が、医師の診察室に行った。
「ダウン症でした」
「そ、そんな……」
妻は、がっくりと肩を落とした。その後、医師が、いろいろ説明をしたが、妻の耳には入らなかった。妻は、気がつくと、一人、バスに乗って、郊外の自宅に帰って、泣いていた。
夕方、夫が、帰宅した。
「検査結果、よくなかったのかい?」
夫が、妻の様子を察して、優しく聞いた。
「……ダウン症だった」
「そうか、いいじゃん。産もうよ」
「そうなの?」
「ああ、僕たちの子供だもん。立派に育つよ」
「ありがとう」
妻が、夫の胸で泣いた。夫の言葉が、本当に嬉しかった。ああ、この人と一緒になって良かった。そう思った。
その夜、妻は、自宅の寝室で、静々と泣いてしまった。夫は、妻の肩をそっと抱いた。夫も、目に涙を浮かべいた。ダウン症の衝撃は、それほど大きかった。
数週間後、妻の陣痛が来た。夫が、妻を産婦人科医院に連れて行った。
「生まれそうなんです!」
夫が、受付で、大きな声で叫んだ。受付の奥から、看護師が、出てきて、妻を分娩室に連れて行った。
「立ち会いますか?」
看護師が、夫に聞いた。
「はい」
夫が、妻の分娩室に入って行った。妻は、陣痛の中、夫を見て、ホッとしていた。妻が、息み始めて、数十分後、「オギャーオギャー」と、姉が生まれた。夫が、飛び跳ねて喜んだ。妻が、安堵の表情を浮かべた。続いて、「オギャーオギャー」と、妹が生まれた。姉妹は、すぐに検査室に連れて行かれて、検査を受けた。
「抱かせてもらえないの……?」
妻が、消え入りそうな声で言った。
「ちょっと検査をしていますのでね〜」
看護師が、優しく言った。
夫妻は、すぐには、姉妹を抱かせてもらえなかった。
数日後、姉妹の父母が、産婦人科の医師の診察室に呼ばれた。
「娘さんは、二人とも、ダウン症でした。しかし、特に大きな合併症はありませんでした」
「本当ですか!」
姉妹の父が、大いに喜んだ。
「良かった……」
姉妹の母も、安堵して、涙を流した。それから、いろいろと注意事項などを聞き、診察室を出た。
「赤ちゃん、抱きますか?」
看護師が、優しく言った。
「抱けるんですか?」
姉妹の母が、すがるように言った。
「はい」
姉妹の父母が、姉妹を抱いた。
「可愛いわ」
「ああ、立派に育てよう」
姉をアナ、妹を妹子(まいこ)と名付けた。
Copyright (C) SUZ45. All Rights Reserved.