四十九日の入学式

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第二話


 アナと妹子は、すくすくと成長し、幼稚園の年長になっていた。ダウン症児は、この頃、健常児とそれほど差異はないので、一緒のクラスで、過ごしていた。アナと妹子も、ダウン症であるとは思ってもいなくて、ごく普通に生活していた。
 アナと妹子が、小学校に入学する前、姉妹の父と母が、夕食後、アナと妹子を自宅の食堂の椅子に座らせた。
「大事な話がある」
 姉妹の父が、切り出した。
「なあに?」
 アナが、不審に思ったが、食堂の椅子に座った。妹子も、椅子に座った。
「よく聞きなさい…………アナと妹子は……ダウン症なんだ」
「ダウン症……?」
「障害なんだ。小学校は、友達と違うクラスになる」
「そんなの嫌だわ!」
 アナは、自宅の子供部屋にこもってしまった。
「お姉ちゃん!」
 妹子も、それに続いた。
「ひどいわ、お父さんとお母さん」
 アナが、子供部屋で、恨み節だった。
「お父さんとお母さんも、きっと辛いんだよ。今まで、ずっと隠してきたんだから」
 妹子が、アナを諌めた。
「そうか……」
 アナと妹子は、子供部屋で、二人で泣きながら、色々な話をした。姉妹の父と母の気持ちを察して、感謝の気持ちが芽生えた。素晴らしい父と母だった。そこは、アナと妹子の見解が一致した。
「お父さんとお母さんを困らせないようにしようね」
 妹子が、アナに進言した。
「そうね」
 アナと妹子は、その晩、ぐっすりと寝た。
 翌朝、アナと妹子は、元気に朝食を食べた。
「ずっと、見守るから。安心しなさい」
 姉妹の父が、言った。
「それなら、安心だなぁ」
 アナが、おどけて見せた。
「ハッハハハハ」
 アナが、大きく笑った。妹子も、釣られて笑った。姉妹の父と母も、微笑んでいた。アナは、姉だけあって、良いムードメーカーだった。妹子と姉妹の父母は、そんなアナに何度も救われた。妹子も、優しく、思いやりのある子だった。アナと妹子は、本当に素晴らしい子供達だった。

 姉妹の父と母は、地元の商社に勤めていて、海外勤務経験も長かった。
「どんな国に行ったことがあるの?」
 アナが、姉妹の父に聞いた。
「トルコ、インド、ギリシャなんかかな」
「お母さんは?」
「フランス、スペイン、トルコに……」
「トルコが、馴れ初めね」
「ハッハハハハ」
「当たり」
 姉妹の母が、白状した。
「ハッハハハハ」
 事実、姉妹の父母は、トルコで出会って、恋に落ちた。そして、アナと妹子が、生まれた。姉妹の家族は、慈愛に満ちていて、笑顔が絶えなかった。ただ、姉妹の父と母は、アナと妹子が、大きくなっても、時々、クレーム対応で、海外に行くことが多かった。そのクレーム対応は、日常茶飯事だった。一旦、海外に行くと、数週間帰ってこないこともザラだった。アナと妹子は、その間、寂しい思いをしていた。
「結婚するなら、商社マンは、絶対に避けるわ」
 アナが、憎まれ口を叩いた。
「ハッハハハハ」
 ここでも、家族は、楽しそうに笑い合った。


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