四十九日の入学式
第三話
郊外には、小さくて古い小学校が、ひっそりと建っていた。小学校には、普通学級が各学年三クラスあり、支援学級が一クラスあった。支援学級の教室は、小学校の校舎の片隅にあり、普通学級の生徒の声も届かなかった。木々のそよぎが、聞こえるのみだった。支援学級の定員は、数人で、教室は、普通学級の教室に比べて、かなり小さかった。
アナと妹子は、小学六年生になっていた。二人とも、普通小学校の支援学級に通っていた。支援学級の生徒は、アナと妹子の二人だけだった。
「もうすぐ、卒業だね」
妹子が、アナに嬉しそうに言った。
「早いもんだねぇ」
「ハッハハハハ」
支援学級の先生は、桃子先生だった。桃子先生は、三十代の女性教師で、独身だった。桃子先生は、姉妹の母の高校の同級生で、大の仲良しだった。その為、アナと妹子とも、公私共に、懇意にしていた。例えば、キャンプに一緒に行ったりするくらいの仲だった。
「お母さんって、どんな子だった?」
アナが、桃子先生に尋ねた。
「お転婆だったわよ〜」
「だろうね」
「ハッハハハハ」
「男の子も、みんな恐れていたわ。喧嘩っ早くて」
「喧嘩か」
「強かったわよ。今も、アナと妹子を守るんだって、張り切っているわ」
「頼れる〜」
「ハッハハハハ」
ある日、アナと妹子が、支援学級で、桃子先生の授業を受けていた。その時、校長先生が、支援学級の教室にやって来た。桃子先生が、呼ばれて、廊下に出た。アナと妹子は、不思議そうに目を合わせた。校長先生と桃子先生が、支援学級の教室の外の廊下で、ひそひそ話をしていた。しばらく、話をしていて、桃子先生が、支援学級の教室に戻って来た。
「アナと妹子、今日から、先生の家に来なさい」
「どういうことですか?」
アナが、聞いた。
「アナと妹子のお父さんとお母さんが、急に海外に行くことになったから。クレーム対応みたい」
「そうなんですか……?」
アナが、残念そうに言った。
「一言くらい言って欲しかった」
妹子が、不満を漏らした。
突然、海外に行くことになるのは、初めてではなかった。それにしても、急だし、姉妹の父と母が、一緒に行くのも、珍しかった。アナと妹子は、不審に思っていたが、素直に、桃子先生の家に行った。
こうして、アナと妹子が、桃子先生の自宅で過ごし始めたのは、二月末のことだった。桃子先生の自宅は、郊外のマンションの一室だった。物置になっていた和室を片付けて、アナと妹子の部屋にした。
「ちょっと狭いけど、いい?」
「うちより広いわ」
アナが、元気に答えた。
「ハッハハハハ」
妹子も、満足そうにしていた。
アナと妹子は、毎日、桃子先生の車で、通学していた。桃子先生の家は、姉妹の自宅からは、少し遠く、バスで行かなければ、たどり着けない距離だった。
そうして、アナと妹子が、桃子先生の自宅に泊まった。夕食は、桃子先生の手料理だった。
「美味しいね!」
アナが、嬉しそうに言った。
「あら、嬉しいわ」
桃子先生が、嬉しそうに笑った。
翌日の放課後、桃子先生が、アナと妹子と一緒に、帰宅しようとしていた。
「歓迎のプレゼントよ」
桃子先生が、アナと妹子に折り鶴を渡した。
「あはは、可愛いわ」
アナが、大喜びした。
「大切にしなさい」
アナと妹子は、桃子先生の指示に従い、折り鶴を肌身離さず持っていた。
しかし、姉妹の父母のいない生活は、思った以上に、刺激がなく、詰まらなかった。
数日後、妹子が、ホームシックになってしまった。一晩中、桃子先生の家の和室で、泣き明かした。一人で置いて行くわけにもいかず、毎朝、桃子先生とアナが、説得して、車に乗せて、通学していた。
「私も海外に行きたい」
妹子が、聞き分けのないことを言った。
「耐えろ。それしかない」
アナが、妹子を勇気付けた。
一方、アナが、電話をすると言って、聞き分けがなくなった。
「桃子先生、お父さんとお母さんの会社に連絡して、電話番号を聞いてください」
アナが、桃子先生に懇願した。
「国際電話は、高いから」
桃子先生は、困ってしまった。
「分かりました。お金の問題ですね」
アナが、お金を貯めるを決心した。以来、アナと妹子が、桃子先生の自宅で、内職を始めた。毎日、桃子先生の自宅で、内職をした。
「こら、アナ。学校で内職しないの!」
小学校でも、授業中に内職をして、怒られた。
「だって、電話したいんだもん」
アナが、聞き分けがなかった。
「そんなことしても、お父さんとお母さんは、喜ばないわよ」
「じゃ、手紙を書く!」
アナが、桃子先生に言った。
「仕方ないわね……」
アナと妹子が、姉妹の父母に、手紙を書いた。
「住所は……?」
妹子が、言った。
「先生が、聞いて送るわ」
桃子先生が、一肌脱いでくれた。「困ったわ……」
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