父兄の参観日

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最終話


 その頃、会社では、福祉商品の完成披露会が、開催されていた。
「どうしても、開催したくて……」社長が、社員に痛切に告げた。
「バス事故に遭った社員のためにも、やり切りましょう!」社員が、声を揃えた。
「アナちゃん、カズくん、義助くん……辛いだろうが、そういう訳だから、約束通り、新商品のモデルを務めてもらうよ」社長が、アナ、カズ、義助に告げた。
「お父さんのために」アナが、キッパリと答えた。
「無事を祈って」カズが、堂々と答えた。
「お母さんは、こんなことでは死なない!」義助が、義助の母の生存を信じていた。
 そして、完成披露会が、スタートした。
 会場のスクリーンに、企画会議の様子が、映し出された。
 アナの父が、プロジェクターで、資料を提示しつつ、
「アナのお腹周りの脂肪を燃焼させるために、アナを横にさせて、お腹の上で、温水を循環させます。温浴効果というか……そうだ! ちょうど、流しそうめんの機械にように……実際に、そばやうどんを流して食べることも可能ですね……さらに、筋電気刺激を加えて……」
 と、プレゼンする様子が、映し出された。
「……」会場は、水を打ったように静かだった。
 それから、アナが、台に横たわって、登場した。お腹の上では、温水が、循環されていた。
「パチパチパチ……」会場から、乾いた拍手が沸いた。
「良い感じです。父の優しさが伝わって来るようです」アナが、マイクを向けられて、答えた。
 アナは、泣いていた。
 それから、カズが、カズの父の新商品を着けて、登場して、
「フラフラしても、常にタブレット画面が見られます」
 と、講評を述べた。
 義助が、色々書き込みをした義足を着けて、ステージに上がって、
「支援学校の友達に書いてもらいました。これで、パラスポーツ大会に出場します!」
 と、堂々と述べた。
 完成披露会の最後に、社長が、ステージに上がって、
「本日は、ご来場ありがとうございました。当社は、社員が遭難中という事態に見舞われています。正直、完成披露会をしている状況ではありません。しかし、完成披露会をすることに決めました。その理由が、これです……」
 と、言った。
 すると、会場に、録音テープの音が、聞こえ始めた。
〈うわっ! スリップした!〉
〈危ない!!!〉
〈崖から落ちるぞ!〉
〈ドカン!〉
〈アナを残して、死にたくないよ……!〉
〈カズ、強く生きろ!〉
〈義助、見守っているから!〉
〈ガツンガツン!〉
〈グハッ……〉
 それは、事故直後の生々しい音声だった。運転手の無線から、発せられて、バス会社の本社で録音されていたものだった。
 そして、最後に、アナの父の声で、
〈完成披露会をやってくれ!!!〉
 と、流れた。
 社長が、
「これが、完成披露会を開催した理由です。アナ、カズ、義助は、気丈にも、モデルを断行してくれました。最後に、三人の勇気に拍手を!」
 と、涙を拭った。
「パチパチパチ!」満場の拍手が沸いた。
 その時、完成披露会の会場のスピーカーから、大きな声で、
「捜索隊が、社員を発見! 全員無事!!!」
 と、流れた。
「ほ、本当なのか……」社長が、その場に崩れ落ちた。
「良かった!」アナ、カズ、義助は、飛び上がって喜んだ。

 後日、アナ、カズ、義助が、会社に呼ばれて、表彰された。アナの父、カズの父、義助の母も、回復して、元気に出社していた。
 アナの父が、代表して、三人に、
「ありがとう、アナ、カズ、義助。三人の完成披露会の勇姿をビデオで見たよ。素晴らしかった。あのバス事故の後、バスの車内は、阿鼻叫喚だった。そんな中、みんなで避難して、沢を探したんだ……でも見つからなくて……怪我をした社員も多く、動けなくなった。雨も降らない……死を覚悟したよ。そんな時、寒くて、スーツのポケットに手を入れたんだ……飴の袋があった……アナからもらった飴の袋が……みんなで分け合ったよ。ありがとう、アナ。ブランデー入りというのが、良かったみたい」
 と、挨拶をした。
「お父さ〜ん」アナが、アナの父に抱きついた。
「アナのおかげだよ」
 アナの父が、係長に昇進していた。

 数日後、アナの父、カズの父、義助の母が、子供たちの授業参観へ行った。
「アナのおかげだよ」アナの父が、アナを見守った。あの飴を食べていたので、少し酔っ払っていた。
「お父さんが生きてて良かったよぅ」アナも、こっそり、あの飴を舐めていた。





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