支援学校映画部:月の神様

トップ > 支援学校映画部:月の神様

第一話


 郊外の支援学校の高等部三年一組には、アナ、カズ、義助の三人の生徒が在籍していた。アナはダウン症、カズは発達障害と軽度の知的障害、義助は義足と高次脳機能障害があった。  三人は、今年、揃って、映画部を立ち上げて、数人の生徒とともに、自主映画の制作を始めようとしていた。三人は、よく部室に集まって、映画の構想を練っていた。
 今日は、支援学校の授業の後、アナとカズが、映画部の部室で、自主制作映画のアイデアを練っていた。 「SFも、良いかなぁ」  カズが、アイデアを出した。 「今ね、宇宙飛行士を募集しているんだって。応募してみれば?」  アナが、カズの話も聞かずに、嬉しそうに報告した。 「訓練とか研究とか、とても無理だろ。それに、発達障害の僕を採用すると思うか?」  カズが、諦め半分で答えた。 「だからこそじゃない。世界初の障害者の宇宙飛行士になるの! 私、一応、応募して見る。そして、月に行ってみたい」  アナは、目を輝かせて、真剣そのものだった。 「行ってどうするの?」 「う~ん、青い地球を見て……飛び跳ねたい。重力って言うのが、小さくて、高く飛べるんだって!」 「そんな人、採用してくれないと思うよ」 「ダメかな……」  アナが、少し気落ちしていた。  カズが、アナの様子をちらりと見て、スマホで、宇宙航空研究開発機構(JAXA)関連の情報を調べて、 「どうして、月に行くか知っているか?」  と、アナを慰めるように問うた。 「……宇宙人の捜索!」  アナが、興味津々に返答をした。  カズは、アナの答えには、答えず、スマホ画面を見ながら、 「目的は、色々あるらしいけど、一つには、地球にないものを探しに行ったらしい。人間は、これまでにも、月に行ってたけど、月の岩石の化学組成は、地球とあまり変わらなかった。つまり、地球にない鉱物など、なかったんだ」  と、教えた。 「けど、今でも、宇宙の研究とか開発は、進めているでしょ」  アナが、真っ当な意見を返した。 「まあ、探査技術なんかを磨くためもあるし、それでもやっぱり、地球に無いものを見つけたいんだろうね。でも、探しても、なかなか難しいんじゃないか?」 「じゃ、作っちゃえば良いのに」アナが、斬新なことを言った。 「作るって、鉱物を? ……まあ、環境が違うから、月では、違うものができるかも知れないけど……」 「鉱物だけじゃなくて、生命体とかも」 「生命体?」 「前、ダウン症のことを調べていたら、ゲノム編集って言うのがあったの。それで、地球上にない、色々なものを作り出せるんだって」  アナの意図は、人間の欲求は、月で鉱物などを探すことから、いずれ、それを作ることへ変わるのではないか、と言うものだった。 「じゃ、地球で作れば良いじゃん」カズが、突っ込みを入れた。 「まあ、そうだけど、月の環境でしか育たない生命体とかがあったら、宇宙の研究にはプラスでしょ。そして、月で、その生命体に何かを作らせるのよ」 「研究としては、良いけど……」 「そして、その生命体が、地球上では、作れないものを生み出したら――。ロマンだわ」 「そうか……可能性がなくもないかもね」カズが、少し納得して来た。 「その時、人間は、その生命体の神になったことになる。月の神様よ!」  アナが、素晴らしいことを考え付いたように、意気揚々と語った。 「言われて見るとそんな気がしなくもないけど」カズも、あえて否定しなかった。 「地球の生命体も、そうやってできてたりして」 「じゃ、地球の神様は、誰なんだろう?」 「宇宙人よ!」 「その宇宙人を作ったのは?」 「……他の宇宙人?」アナが、自信なさそうに答えた。 「そうやって考えて行くと、宇宙の成り立ちが、分かるかもね」 「だから、宇宙の研究をする価値があるんじゃない?」 「でも、どんどん月の生命体が誕生したら、手に負えなくなりそうだな」 「そうね……月で、人間が欲しているものを作る生命体が、脅威になったら、人間――月の神様――は、その脅威になっている生命体を生き絶えらせるんじゃないかしら」 「どうやって?」 「う~ん」アナが、考え込んでしまった。 「まあ、天敵を作ったり、残したい生命体のゲノムをちょっと変えたりするのかなぁ?」  カズが、代わりに答えた。 「そうね。そうして、再び、月の平穏は保たれるんだわ!」


目次  次へ

Copyright (C) SUZ45. All Rights Reserved.