採寸

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第一話


 片田舎の支援学校の体育館では、高等部三年生の卒業式が、執り行われていた。卒業式には、三十五名の卒業生、父兄、先生が、列席していた。卒業生の席には、アナが、ちょこんと座っていた。アナは、その胸に遺影を抱いていた。アナの支援学校の制服姿は、よく似合っていた。

     *

 アナと義助は、小学六年生だった。アナはダウン症で、義助は左足が義足だった。二人は、小学校一年生の時から、支援学級の所属だった。支援学級の生徒は、共同学習として、普通学級で授業を受けることも多くあった。

 この日、アナと義助は、共同学習の授業を終えて、支援学級の教室に戻った。
 支援学級の剛田先生が、支援学級の教壇に立って、
「もうすぐ、中学校の制服の採寸です。進学先によって制服が違うので、志望中学校を用紙に記入して、提出してください」
 と、伝えた。
 剛田先生は、もうお爺さんで、今年で定年退職することになっていた。とても厳しい先生で、支援学級のアナと義助をよく叱っていた。
「どこの中学校へ行こうかな〜」義助が、アナに声をかけた。
「普川中学校に行きたい!」アナが、即答した。
 普川中学校は、進学校ではないものの、いわゆる普通中学校で、支援学級の生徒が、通うには、少し無理があった。
「アナに行ける訳ないだろう。偏差値五十五はないと。勉強、ついて行けるのか?」剛田先生が、突っ込みを入れた。
「私の偏差値、いくつくらいですか?」
「三十五。諦めなさい」剛田先生は、厳しく、断固反対の姿勢だった。
「……」アナが、絶句した。
「義助も、油断するなよ」剛田先生が、義助にハッパをかけた。
 義助は、アナより勉強ができたが、普川中学校に確実に合格する保証はなかった。

 放課後、アナと義助が、普川中学校に入学した際の抱負を語った。
「勉強を頑張るんだ〜」アナが、微笑んだ。
「アナが、勉強なんて、ヒョウが降るぞ」義助が、突っ込んだ。
「ひど〜い!」
「ハッハハハハ」
「義助は、何をするのよ?」
「パラスポーツに打ち込むんだ」義助が、義足をちょっと触った。
 普川中学校は、スポーツの名門校だった。特に、パラスポーツにも力を入れていた。

 アナと義助が、共同学習の音楽の授業で、普通学級の生徒と一緒に、卒業式で歌う合唱曲の練習をしていた。
「卒業式の合唱は、剛田先生のために歌おう!」アナが、普通学級の生徒に申し出た。
 アナは、今年定年退職の剛田先生のために歌いたかったのだ。
「まあ、良いけど〜」普通学級の生徒も、一応、賛同してくれた。

 アナと義助が、二人並んで下校していた。
 その時、普川中学校の生徒が、歩いていた。
「アナ、あの制服着ると、太いのが強調されるぞ」義助が、アナをおちょくった。
「太いってなんだよ」
「ごめんごめん。冗談」
「勉強とダイエットに集中する!」アナが、宣言した。
「お供するよ」

 以来、アナと義助が、勉強に運動に張り切った。
 アナと義助が、小学校の運動場で、走り込みをしていた。
「義助、義足辛くないか?」アナが、義助を気遣った。
「アナのためだもん。どんな苦労でもするさ」義助が、お茶目に答えた。
「……ありがとう」アナが、意外にも、優しく応対した。

 アナと義助が、運動場で、走り込みをしていると、アナが、フラフラと座り込んだ。
「アナ、大丈夫か!」義助が、慌てて駆け寄った。
「義助……」アナの意識が、朦朧としていた。
「保健室までおんぶするから」
 義助が、アナを保健室に連れて行った。
「貧血ね」保健の先生が、手当てをしてくれた。
 アナは、無理なダイエットをして、軽い貧血になっていた。
「アナ、何してるんだよ。僕が、太いって言ったからか?」義助が、目を覚ましたアナに問うた。
「……痩せて、義助に可愛い制服姿を見せたいじゃん」アナは、どこまでも健気だった。
「アナ……」
「アナ、迷惑かけるんじゃないぞ」剛田先生も、駆けつけてくれていた。

 剛田先生が、支援学級の教壇に立って、
「もうすぐ、中学生だね。ほとんどの中学校も、制服があるから、各自採寸をしておくように」
 と、伝えた。
「いよいよだね」アナが、興奮気味に、義助に声をかけた。
「一緒に、採寸に行こうか?」
「そだね」
 そうして、アナと義助が、制服店で、中学校の制服の採寸をした。
「私、太いですよね?」アナが、制服店の店主に恥ずかしそうに言った。
「気にしなくて良いよ。色んな子がいて良いと思う」制服店の店主が、優しく微笑んだ。


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