採寸

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第三話


 アナは、制服ができた後も、運動を続けていた。
「アナ、痩せたな」義助が、アナに声をかけた。
「だろう?」アナが、得意げに笑った。
「ハッハハハハ」
「アナ、まだ運動するのか?」
「太ったら、制服が、いきなり着られなくなるだろう」アナが、理由を語った。
「ハッハハハハ」
「そうかそうか。賢くなったな。これから、ずっと運動しないといけないね」
「仕方ない。制服のためだ」
「ハッハハハハ」
 そうして、毎日、アナと義助が、運動場で、練習をしていた。
「あ、剛田先生、今日も来ている」義助が、運動場の端を見た。
「今日も、って?」アナが、問うた。
「アナの貧血の後、毎日見守ってくれていたんだ」
 剛田先生は、アナのことが心配で、仕方がなかったのだ。
「し、知らなかった……」
「中学校で一生懸命やって、恩返ししな」義助が、優しく微笑んだ。
「そうね。勉強も運動も、健常児について行けるようにならなくちゃ……義助、また力を借りるぞ」アナが、義助を頼りにした。
「お安い御用だ」義助が、喜んだ。

 アナと義助が、下校途中に、他校の生徒に囲まれて、
「この障害児が!」
 と、絡まれた。
 偏見だった。
「止めてください」アナが、必死に抵抗した。
「止めろよ」義助も、応戦した。
 しかし、状況は、芳しくなかった。
 その時、遠くから、
「何している!」
 と、大きな声がした。
 剛田先生だった。
「チッ、先公が来たぜ」
 他校の生徒が、逃げ去って行った。
「ありがとうございます」アナが、お礼を言った。
「自分たちで解決できるようになりなさい」剛田先生が、きっぱりと言い切った。

 小学校の最後の授業の日、アナと義助が、支援学級の教室で、
「剛田先生に晴れ姿を見せてあげよう」
 と、制服を着ることにした。
「似合うでしょ?」アナが、義助に同意を求めた。
「アナ、すでにパツンパツンだな」義助が、笑った。
「うるせぇ」
「ハッハハハハ」
「アナ、六年間ありがとうな」義助が、しみじみと言った。
「なんだよ、辛気臭いな」アナが、軽くあしらった。
「ハッハハハハ」
「アナくらい、サバサバ生きたいよ」
「確かに最高の六年間だった」
 そこへ、剛田先生が、入室して来た。
「剛田先生、一緒に写真を撮りましょう!」アナが、声をかけた。
 アナと義助が、剛田先生と一緒に記念撮影をした。
「よくここまで頑張ったね」剛田先生、泣いていた。

 小学校の体育館で、卒業式が、執り行われた。
 途中、卒業生の合唱になった。
「剛田先生のために」アナが、声を出した。
 卒業生が、感謝の意を込めて、歌った。
 歌い終わって、アナと義助が、
「剛田先生、ありがとう!」
 と、叫んだ。
 卒業式の後、剛田先生が、アナと義助の元へ来て、
「アナ、義助、卒業おめでとう。二人は、僕の最後の教え子だからね。頑張るんだよ」
 と、声をかけた。
「はい!」アナが、元気よく答えた。
 アナと義助は、四月から、普川中学校の生徒だ。
「一つ忘れないでいて欲しいことがある」剛田先生が、声のトーンを落とした。
「なんですか?」アナが、聞いた。
「支援学校が悪い訳じゃない。手厚いサポートを受けられるし、職業訓練もしてもらえる。要は、自分に合った進学先を選ぶことだ」
「分かりました」義助が、返事をした。
「将来、支援学校に移ることもあるかも知れない。でも、決して腐らずに、その道でベストを尽くして欲しい」剛田先生が、真摯に告げた。
「はい」義助が、返事をした。
「……」アナが、その真意が分からず、黙っていた。
「それじゃ……」
 剛田先生が、去って行った。
「剛田先生は、支援学校を勧めたいのかしら?」アナが、怪訝そうに義助に聞いた。
「アナに、逃げ道を作ってくれたんだよ。アナは、一生懸命にやりすぎるところがあるから。いつでも、戻れる場所があると」義助が、剛田先生の真意を読み取った。
「剛田先生……」アナが、言葉を失った。


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