採寸

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最終話


 五年後の正月明け。
 アナは、制服店で、採寸をしていた。
「では、仕上がりは、二月になります」制服店の店主が、優しく告げた。
「お願いします」アナが、頭を下げた。
 アナは、支援学校に転校することになって、制服を新調していた。
 アナが、付き添ってくれた義助に、
「やっぱり勉強について行けなかったわ」
 と、弱音を吐いた。
「支援学校が悪い訳じゃない。剛田先生の言葉通りだよ。良いと思うよ」義助が、アナを励ました。
「ありがとう。剛田先生の言葉は、この時のためのものだったんだよね?」アナは、剛田先生の真意を理解できていた。
「剛田先生に知らせようか?」義助が、提案した。
「……卒業したら、伝えようかな?」アナが、照れ臭そうに答えた。
「そうだね」

 同じ頃、義助が、義肢装具士の採寸を受けていた。パラスポーツの大会に向けて、義足を新調した。
「この義足なら、良い線行くと思うよ」義肢装具士が、義助に声をかけた。
「頑張ります」義助が、満足そうに答えた。
 以来、義助が、新しい義足を着けて、練習に明け暮れた。
 義肢装具士が、義助の練習を見に来て、
「義助くん、『採寸』という言葉は、寸、ごくわずかな量を、採り入れる、という意味があるんだ。義足作りとは、そうしたものかも知れない」
 と、告げた。
「どういうことですか?」義助が、その真意を問うた。
「そのごくわずかな量が、勝負を左右する。人の努力も、同じかも知れない。優勝する者と敗退する者の差は、ごくわずかだよ」義肢装具士が、説明した。
「そうかも知れませんね」
「きっちり採寸することで、ごくわずかでも、義助くんの助けになりたいと思っているよ」
「いえいえ、大きな助けになっています」義助が、頭を下げた。

 六年後の暮れ。アナが支援学校の高等部三年生、義助が普通高校の三年生になっていた。
 義助が、パラスポーツ大会で、優勝した。
「義助、よくやった!」アナが、応援していた。
 大会後、アナと義助が、
「剛田先生にお礼を言いたくて!」
 と、剛田先生の家族に連絡をとった。
「剛田は、入院しています」剛田先生の妻が、冷静に告げた。
「え!」アナが、言葉を失った。
 アナと義助が、すぐに剛田先生のお見舞いに行った。
 病室は、し〜んと静まり返っていた。
 亡くなった直後だった。
「剛田先生〜!!! 先生の仰る通りでした。毎日、楽しく過ごしています」アナが、支援学校の生活を報告した。
「これ、剛田から。二人から連絡があったことを伝えたら、最期の力を振り絞って、言葉にしました」剛田先生の妻が、スマホを差し出して、録音された音声を再生した。
 音声:〈アナ、支援学校に移ったことは、聞いていました。恥ずかしいことじゃないんだから、胸を張りなさい。アナの支援学校の制服姿も、見てみたかったな。きっと似合っているんだろうね。義助、パラスポーツ大会、優勝したんだって? 驚いたよ。いや、義助の頑張りなら、当然の結果か。アナを幸せにしてあげなさい。義助のことを心底好きだから。二人の先生で本当に良かった〉
「御冥福をお祈りいたします」
 アナと義助が、剛田先生の手を握って、泣いた。

 アナが支援学校を卒業して、義助が普通高校を卒業した。
 二人は、卒業式に剛田先生の遺影を持っていた。

     *

 アナと義助が、採寸をしていた。
「このようなデザインになります」
 店員が、タブレットで、完成形を見せてくれた。
「胸元、開きすぎじゃねぇ?」義助が、アナの心配した。
「あら、ジェラシー感じちゃう?」
「ちげーよ!」
「ハッハハハハ」
「義助こそ、ウエスト細すぎじゃない?」アナも、負けじと義助に茶々を入れた。
「アナと違って、スリムなんだよ」
「世界に一着だけの服ですからね。お二人が並ぶと、こんな感じです」店員が、二人の合成写真を示した。
「……うん、良い感じ」アナが、微笑んだ。





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