そういう差

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第二話


 アナと義助は、この支援学校の高等部三年一組の同級生。
 アナは、ダウン症で、軽度の知的障害があった。勉強も少し苦手だったが、メタボなので、運動はかなり苦手。
 義助は、生まれた時から、左足の膝下が無くて、義足を着けていた。
 アナと義助は、同じ小学校だったが、アナは支援学級で、義助は普通学級だった。その後、二人とも、支援学校の中学部に進んだ。二人は、中学部一年生の時からの同級生だった。
 この支援学校には、いくつかの部活があって、多くの生徒が、入学時に、いずれかの部活に入ることになっていた。
 支援学校の入学時に、義助が、
「アナ、一緒に陸上やらないか?」
 と、アナを支援学校の陸上部に誘った。
「え、走るの?」
 運動の苦手なアナは、最初、拒否反応を示した。
「やって見たいんだ」
 義助が、真剣に懇願した。
「……しょうがないなぁ」
 アナが、しぶしぶ了解した。
 実は、義助は、義助の父の影響で、小学校の頃から、陸上の練習を重ねていたのだ。アナは、そんなことはつゆ知らず、義助の活躍を横目に、必死に練習に付いて行く毎日だった。
 義助が、練習後に、いつも、
「アナ、速くなったじゃないか」
 と、優しくアナに声をかけてくれた。
「付いて行くのがやっとだわ」
 アナが、へとへとになって答えた。

 義助の父は、地元の実業団に所属する有名なアスリートで、地元の雑誌などでも特集が組まれるほどで、オリンピックへの出場が期待されていた。
 一方、アナの父は、地元の小さな会社に勤めるごく普通の会社員だった。
「義助は、良いよな。華々しい父親が居て」
 アナが、よく愚痴っていた。
「会社員だって、立派な職業だよ」
「そうかしら」
 アナが、拗ねていた。アナは、どうしても、アナの父と義助の父を比較してしまって、いつも憂うつな日々を送っていた。

 アナと義助は、陸上部の厳しい練習に耐えて、高等部三年生になった。
「アナ、ありがとうな。ここまで続けて来られたのは、アナのおかげだよ」
 義助が、照れ臭そうに言った。
「だね」
 アナが、臆面もなく答えた。
 実際のところは、何度も「もう辞める!」と、練習を投げ出したアナを義助が、説得して、ここまで来た。アナも、なんだかんだで、やり甲斐を感じて、続けていた。だから、二人の間には、盟友と言う強い絆が、形成されていた。

 義助の父の指導は、高等部一年生の頃から、本格的に始動した。
「アナと一緒にパラリンピックに出たいんだ」
 全ては、義助の一言からだった。
「本当に厳しいぞ」
 義助の父が、意思確認をした。
「パラリンピックの舞台に立ちたいんだ!」
「何の為に?」
「アナを喜ばせたいから」
 義助が、義助の父の目をじっと見据えて、言った。
「……分かった。付いて来いよ」
「はい」
 そうして、アナと義助は懸命に走り、義助の父は厳しく指導し、アナの父はのんびりと見守った。


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