そういう差
第三話
アナと義助が高等部三年生の春、オリンピック・パラリンピックの予選が行われることになった。アナと義助は、四百メートルのパラリンピック予選、義助の父は、四百メートルのオリンピック予選に出場することになっていた。今回の予選大会は、日程の都合上、三人の予選は、同じ会場で、同じ日に開催されることになった。アナの父も、観戦に訪れていた。
まず、パラリンピックの予選が開始された。
アナと義助が、トラックでアップを始めた。
義助の父とアナの父が、観客席で、見守っていた。
「アナ、そんなに緊張するなよ」
義助が、アナを落ち着かせた。
「勝つぞ、義助!」
アナの気合が、空回りしていた。
アナと義助は、同じレースに出場することになった。各レース八人中、二位以内に入れば、予選の決勝に出場できることになっていた。
いよいよ二人の順番が、来た。
二人が、スタート位置に着いて、集中した。
号砲が鳴った。
二人が、スタートした。
アナが、出遅れて、どんどん抜かれた。
義助は、スタートも良く、三番手辺りに着けていた。
義助は、最後まで、接戦だった。
アナも最後の力を振り絞って、懸命に走った。
そして、ゴール。
アナは、惨敗。アナは、すぐさま、義助の順位を確認した。
義助は、健闘むなしく、三位で、予選落ちだった。
「悔しい……」
義助が、弱音を吐いた。今までの苦労が、台無しになった気持ちだった。
「参加することに意義がある」
アナが、断言して、義助の肩をポンと叩いた。
「アナは、気楽で良いよな」
「ハッハハハハ」
アナが、大きく笑った。アナだって、悔しかった。だが、義助の苦労を知っていただけに、黒子に徹したのだ。アナには、追い詰められた時の、そう言う優しさがあった。それは、アナが、努力して努力して手に入れた長所だった。そして、陸上部に誘ってくれた義助への感謝の気持ちでもあった。
その後、オリンピックの予選が始まった。
義助の父の出番が来た。アナ、義助、アナの父が、観客席で、応援をした。
「いよいよね」
アナが、興奮した。
「ああ、お父さん、頼む!」
義助が、祈った。
義助の父が、スタート位置に着いた。
会場が、シーンとした。
スタート。
選手が、一斉に走り出した。
義助の父の出だしは、上々だった。
ぐんぐん勢いを付けて、先頭集団に入っていた。
「行け! お父さん!」
義助が、思わず立ち上がって、声援を送った。
義助の父が、懸命に走った。
先頭集団は、接戦だった。
ゴールした。
会場が、一瞬静まり返った。
会場の掲示板に順位が、表示された。
義助の父は、一位だった。
義助の父は、オリンピック出場を決めた。
「お父さん!」
義助が、声を限りに声援を送った。
義助の父が、観客席のアナ、義助、アナの父に手を振った。
大会の終盤、閉会式が行われた。アナ、義助、義助の父ら選手が、トラックに整列していた。
大会会長の閉会の挨拶の後、オリンピック・パラリンピックに出場することが決まった選手が、インタビューに答えた。
義助の父が、登壇して、マイクに向かって、
「僕には、大学時代の大切な先輩がいます。その先輩は、僕よりも陸上選手として、有望で、オリンピックに一番近い選手でした。しかし、練習中の怪我で、選手生命を絶たれました。その後、僕らは、社会人になって、先輩は、娘を授かり、僕は、息子を授かった。息子には、片足がありませんでした。正直、絶望しました。その時、その先輩が、『お前は、走って、義助の夢になれ。義助に生きる希望を与えるんだ』と、仰ってくれた。『パラリンピックがある』と。……アナ、その先輩は、アナのお父さんだよ」
アナの父は、実は、義助の父の恩人だった。
義助の父が、続けて、
「アナのお父さんは、立派な会社員だよ。少なくとも、僕は、アナのお父さんから感動をもらった。それが、今の原動力になっている。そして、アナと義助の姿から、感動をもらった。アナは、義助から、感動をもらわなかったかい?」
と、アナの方を見た。
アナが、コクリと頷いた。目には、うっすらと涙が浮かんでいた。
「義助、感動をありがとう」
アナが、隣の義助にお礼を言った。
「こちらこそ」
義助が、にっこりと微笑んだ。
「以上です」
義助の父が、観客に深々と頭を下げた。
満場の拍手がわいた
閉会式の後、アナが、観客席に走って行って、
「お父さ〜ん!」
と、アナの父に抱きついた。
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