童話
ヘンゼルとグレーテル
ある森のはずれに、木こりと継母、それに、ヘンゼルという男の子と、グレーテルというダウン症の女の子が住んでいました。
ある夜、空腹で寝つけなかったヘンゼルとグレーテルは、父と継母の会話を聞いてしまいます。
「食べるものがないんだから、あの子たちを森に捨てましょう」
「子供を捨てるなんて、考えられない」
怖れたグレーテルは、ヘンゼルに相談します。
「どうしようお兄ちゃん」
「僕に任せておけ」
ヘンゼルは、夜中に屋外で、白い小石をいっぱい拾いました。
翌朝、一睡もできなかった父親が言います。
「ヘンゼル、グレーテル、よく聞きなさい。今日は森に行くよ。これは、お昼ご飯のパンだよ。一緒に楽しもうね」
ヘンゼルとグレーテルは、森に捨てられることを知っていました。それでも、目を真っ赤に腫らした父親の言う通りにしました。
森の奥に着くと、父親は、木を切りに行くと言い残し、二人を残して家に戻ります。
「お兄ちゃん、本当に私たち捨てられちゃった」
「お父さんの目を見たかい?」
「真っ赤だった」
「お父さんも必死だよ」
そこへ、綺麗な小鳥がやってきました。
「わあ、綺麗な小鳥」
「グレーテル、家には戻れるから、少し森で生活してみようか」
「お父さんとお母さんもそう願ってるんだよね」
「よし、あの綺麗な小鳥についていこう」
二人は、綺麗な小鳥の後を追いました。
すると、どうでしょう。お菓子でできた家にたどり着いたのです。
「お兄ちゃん、この家を食べようよ」
「ダメだよ、人の家だよ」
「えー、ダメ?」
「そう、勝手にそんなことしちゃダメだよ」
ヘンゼルは、玄関口に立ち、家の人にあいさつしようとしました。
すると、家の中から、おばあさんが出てきました。
「ヘンゼルとグレーテルと申します。もしよろしければ、お菓子を分けていた
だけないでしょうか」
「どうぞ、お食べ」
「優しいんですね!」
「優しい・・・?」
おばあさんは、少し驚きましたが、お菓子を食べる子供たちを鋭い目で見つめました。実は、おばあさんは、人喰い魔女だったのです。
「お兄ちゃん、美味しいね」
「うん、神様のご褒美だね」
「ヘンゼルとグレーテルや、家の中にも食べ物があるから、おいで」
「はい、おばあ様」
魔女のご馳走を食べ、二人とも、満腹で眠りについてしまいました。
グレーテルが目を覚ますと、ヘンゼルがいません。
「グレーテルや、ヘンゼルは、大きな鳥かごの中にいるよ。食事を与え、太らせておやり」
「どうして?」
「私は、魔女だよ。お前たちを食べるつもりさ」
「分かりました」
「え?」
グレーテルは、甲斐甲斐しく、ヘンゼルに食事を与えに行きました。
「お兄ちゃん、どうすればいい?」
「いいかい、グレーテル、僕はダメかもしれない。でも、君は助ける」
「どうやって?」
「隙を見て逃げよう」
ある日、グレーテルが魔女の元に食事をとりに行くと、魔女は寝入っていました。その横には、鳥かごのカギが。
「今しかない」
グレーテルは、意を決して、鍵を盗り、ヘンゼルの元に走りました。
「私、悪いことしちゃった。鍵を盗んだの」
「いいんだ、それは悪くない」
二人は手に手を取って駆け出しました。
「お待ち!」
そこへ、魔女が飛んできました。
「私から逃げられるとでも思っているのかい?」
「グレーテル、僕が食い止める、逃げな!」
「嫌、お兄ちゃんと一緒にいる!」
「ダメだ!逃げろ!」
「兄弟愛だねえ。フフフ安心しな、私の胃袋で一緒になれるわい」
魔女が近づくと、ヘンゼルがグレーテルをかばいます。
まさに、ヘンゼルが魔女に食べられるという、その時、グレーテルがお父さんに貰ったパンを持ち、言い放ちました。
「魔法でこのパンを人間に変えればいいのに」
「・・・」
魔女は、キョトンとしました。
「・・・気付かんかった」
「グレーテル、いいアイデアだよ」
「お兄ちゃん、逃げて!」
グレーテルは、パンを魔女の近くに放り投げ、ヘンゼルと共に、逃げ出しました。
「白い小石を頼りに走るんだ」
「お兄ちゃん、凄い。目印だったんだ!」
「言っただろ、僕はどんなことがあっても、君を助ける」
「あら? 小石が光ってる」
ヘンゼルとグレーテルは、立ち止まり、小石を拾うと、それが真珠に変わりました。
「これ、真珠だ」
「凄い、これがあれば、お父さんとお母さんになんでも食べさせてあげられるわ」
「急ごう、魔女が追ってくる」
その時、森の奥から魔女の声が聞こえました。
「勇敢なる子供たちよ。もう怖れることはない。お前たちには負けた。それは褒美だよ」
「ありがとうおばあ様。長生きしてね」
「魔女に、長生きして、かい?」
綺麗な小鳥が空を舞います。
「グレーテル、お前こそ長生きしな。親孝行するんだ」
二人は、大量の真珠を抱え、家に戻ることができました。
父親が出迎えます。
「おお、戻ってきたか!本当に済まなかった」
「いいんだよ、お父さん」
「お母さんは?」
「奥で寝てる」
「病気なの?」
「あの日以来、何も食べてないんだ」
「これで、食事をあげて」
グレーテルが真珠を差し出すと、お父さんは驚きました。
「魔女に貰ったんだ」
「早速、食事を買いに行って来よう」
お父さんが出かけ、ヘンゼルとグレーテルは、母親の元に行きました。
「本当に済まなかったね。森に捨てるだなんて」
「森で魔女に会ったの」
「何かされたのかい?」
「食べられそうになったけど、色々あって、真珠をたくさんもらったの」
「真珠を?」
「うん、お母さんに、ネックレスを作るね」
「・・・グレーテル、なんて優しい子なの」
「捨てたことは忘れて」
「お母さんも必死だったんだろう」
ヘンゼルも、継母に言いました。
「お母さんの本当の気持ち、言わなくても解るよ」
「・・・(泣)」
継母は、ただただ泣くばかり。
「お母さんが亡くなる時、言ってた。・・・生まれ変わって私たちを救うんだって」
グレーテルが、実母のことを思い出していた。
「なあ、グレーテル」
ヘンゼルが、声を掛けました。
「なあに?」
「あの綺麗な小鳥、お母さんの生まれ変わりだったんじゃないか」
「・・・お母さん(泣)」
「不器用な人だったからな」
「・・・私、みんなに支えられてる」
「君が幸を呼ぶんだ」
了
画像の出典
- https://www.poplar.co.jp/book/search/result/archive/3331022.html
Copyright (C) SUZ45. All Rights Reserved.