トップ > 童話 > 糸くり三人女

童話


糸くり三人女


 昔、ある村にダウン症の女の子がいました。
 お母さんが、お菓子ばかり食べている女の子を叱って、女の子は道端みちばたで大泣きしていました。

 そこに、王妃が通りかかりたずねます。
「どうしてこの子はこんなに泣いているの?」
「うちの娘は、糸紡いとつむぎが大好きなんですが、貧しくて麻を買えないので、泣いているんです」
 と、お母さんは嘘をつきました。
「ほう!そんな高尚こうしょうな子なら王家にもふさわしい。王家で連れてってもよろしい?」
「何のお役にも立てませんが・・・」
「あら、そんな卑下ひげすることもないわよ」
 そうして、女の子は、王妃に連れられ、王家に行きました。

 そして、王子も女の子を気に入り、一つ提案ていあんしました。
「一晩で、糸を紡ぎ、ドレスを作ることができたなら、僕と結婚しよう」
 女の子は、お母さんの手伝いをさぼっていたので、糸紡ぎができません。

糸くり三人女
 女の子が困っていると、口の大きな女性、片手の大きな女性、それに片足の大きな女性がやってきました。 「私たちに任せなさい」 「ドレスを作ってくれるんですか?」 「ただし、私たちを結婚式に招待して」 「分かりました」  そうして、見事に一晩で立派なドレスが出来上がりました。 「さあ、そのドレスを着て、結婚式だ」  王子が、女の子をエスコートします。 「私で良いんですか?」 「君じゃなくちゃダメなんだ。ん? あちらの方々は?」 「ドレスを作ってくれた人たちです」 「君が作ったんじゃないのかい?」 「はい、作ってもらいました」 「ふっ・・・うわさ通りの正直者だ」 「目の前に王妃の座があるのに、嘘をつかないんだね」 「嘘は嫌いです」 「僕は、そういうところにれたんだ」 「・・・ごめんなさい。私、結婚しません」 「どうして?」 「お母さんと暮らしたいんです」 「ふっ・・・本当に魅力的みりょくてきだ」 「お母さま、やっぱりダメですね」  王子は、結婚式に参列していたお母さんに言います。 「何とか嘘の一つでもつかせようとしたんですが」  お母さんは、王子に謝ります。 「みんなで君に嘘をつかせようとして、茶番ちゃばんを演じたんだ」 「どうして?」 「これからの荒波を自分で生き抜くためさ」 「荒波?」 「うん、偏見という荒波さ」 「時には嘘も必要さ」 「嘘はつきません」 「分かった。嘘をつかない者は今、王家にはいない。君には、是非、王家の一員になって欲しい」 「お母さんも?」 「・・・実は、お母さんは病気でもう長くないんだ」 「嘘つき!」 「・・・嘘じゃないのよ」  お母さんは、女の子に言いました。 「ごめんね、お母さんもうすぐ死んじゃうの。王子様の言うことをよく聞いて、楽しく暮らすんだよ」 「嫌!」 「今こそ嘘をつくの!」 「嫌!」 「嘘をつきなさい」 「嘘をつくくらいならお母さんと一緒に天国に行きます!」 「・・・ダメか」 「結局、嘘はつかず仕舞じまいいでしたね」  お母さんと王子は落胆らくたんします。 「貧しい生活に逆戻りよ」 「お母さんと一緒がいい」 「喜んでいいのかしら」 「お母さんと一緒に死ぬ」 「ふっ・・・それも嘘よ」 「え! 死なないの?」 「ええ、健康そのものよ」 「でもね、いつかは死んじゃうの。その時は、一人で生きていくのよ」 「うん」  女の子は最後に嘘をついた。




童話の目次  トップページへ

画像の出典

  1. https://ja.wikipedia.org/wiki/糸くり三人女

Copyright (C) SUZ45. All Rights Reserved.