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童話


長靴をはいた猫


 ある田舎の粉挽こなひきき職人が死んだ。長男には粉挽き小屋、次男にはロバ、ダウン症の三男には猫が遺産いさんとして分配された。
「俺は、粉挽き小屋で商売ができる」
「俺は、ロバを使って宅配をするさ」
「僕は、猫といると楽しいんだ」
 三男だけが生活のかてにならない猫を相続し、お兄さんたちは心配しました。

長靴をはいた猫
 ところが、この猫が切れ者。長靴をはいて、颯爽さっそうと狩りに出ます。そして、ウサギや魚など何でも獲ってきてくれました。 「君は、凄い取柄とりえがあるんだね」 「あれ、ご主人様にもありますよ、取柄」 「何だい?」 「お教えしますよ」  猫が、そう言って、数日後。王様が王女と共に、この田舎町を訪れることになりました。名もない田舎者の三男は、王様の馬車を一目見ようと、道に佇み、待っていました。そして、馬車がやってきました。その時です、三男の猫が道に飛び出したのです。三男は、後先かえりみず、馬車の前に飛び込み、猫を助けました。しかし、大怪我をしてしまったのです。馬車から、王女が出てきて、手当てをしてくれます。 「この方は?」 「この地方の大地主です」 「そうです、大地主です」  村人は、みんな嘘をつきました。一人残らず、三男は大地主だと言ったのです。王様も心配して言います。 「近くに侯爵こうしゃくの城がある」 「そこまで、馬車に乗って参りましょう」  そうして、大怪我をした三男を馬車に乗せ、王様と王女は、侯爵の城に向かいます。  そして、侯爵の城に着き、手当てを済ますと、王様は侯爵に問います。 「この方は、どなたじゃ?」 「大地主です」  なんと、侯爵までもが嘘をついたのです。 「猫を助けるために馬車に飛び込むなんて・・・」  王女は、泣きながらも、三男を気遣い、いつしか恋が芽生えました。  そして、結婚。  三男は事情がよく分からなかったのですが、一言。 「猫は無事ですか?」 「もちろん、新しい家族になってくれました」  猫は、三男の家族として、愛されました。  幸せ真っ盛りの中、王様が猫に問います。 「何故、村人たちは、彼が大地主だと言ったんだい?」 「王様は、ご存知でしたか」 「ワシがそんなことも見抜けないとでも?」 「お兄さんたちが頭を下げて根回ししたんです」 「侯爵までも嘘をついたのかい?」 「あれは、想定外でした」 「最後に一つ。もしも彼が馬車に引かれて死んでいたらどうする気だったんだ?」 「・・・それまでの人生かと」 「ふぉっふぉっふぉっ、お主、面白いな」 「これが彼の人徳じんとくという取柄です」




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  1. https://www.amazon.co.jp/長ぐつをはいたネコ-DVD-アントニオ・バンデラス/dp/B008553RL6

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