童話
眠れる森の美女
ある王国に、子供に恵まれない王がいましたが、高齢になってようやく女の子が生まれました。女の子は、ダウン症でした。それでも、王は喜び、盛大にお祝いをしました。
国中の魔法使いも呼び寄せましたが、13人いた魔法使いの内、悪名高き1人を呼びませんでした。
祝宴が始まり、魔法使いが順に、お祝いの魔法を披露する中、11人目の魔法使いの魔法が終えた時、祝宴に呼ばれなかった魔法使いが現れて、言いました。
「よくも私をのけ者にしたね!」
「金の皿が足りなかったんじゃ」
「体裁を気にするからだよ」
「なんだか後ろめたさがあって・・・」
「ダウン症のどこが悪いんだい」
「王家の恥じゃ」
「なんだって!許さないよ!こうしてくれるわ!」
「何をしたんじゃ!?」
「王女が 15歳になったとき、紡ぎ車の錘が指に刺さって死ぬ、という呪いだよ」
魔法使いは去りましたが、祝宴の参加者はパニックになりました。
「この子に何故これ以上の試練を与えるのでしょうか」
王妃は、泣きながら言いました。
12人目の魔法使いが言いました。
「王女がダウン症というのは本当ですか?」
「・・・隠し立てしてしまい申し訳ない」
「そうですか・・・」
「呪いは解けないんですか?」
「あの魔法使いは別格です」
「どうか、王女を救ってください」
「2つの選択肢があります。ダウン症を治して死ぬか、15歳の時に死の代わりに100年間の眠りに就くか」
「ダウン症を治したら、15年の人生になってしまうんですか?」
「ええ、それ以上は、どうすることもできません」
王妃は、王女の前で、涙が出なくなるほど泣きました。
「・・・100年の眠りを」
王は、決断しました。
祝宴が終わり、改めて我が子を見つめ、王は言いました。
「15年間しかないのか」
「この子が何をしたのでしょう」
「悪いことなんて何もしておらん」
「それではなぜこんな試練を?」
「王家の真価が問われているのかもしれぬ」
「誕生を心から祝ってなかったのかもしれません」
「国中のダウン症の者を祝う宴を執り行おう」
「ええ、15年間、この子が幸せになれるよう手を尽くしましょう」
王は、国中のダウン症児を集め、祝宴をあげました。中には、幼少期に亡くなってしまったダウン症児の家族も参加していました。
「15年間も生きられるのは幸ですよ」
「モノは考えようじゃな」
その後、王も王妃も、そして大きくなった王女も充実した人生を送っていました。
「100年の眠りって本当なの?」
王女は、誰からか聞いた噂を口にしました。
「そうじゃ、15歳になったら、お別れじゃ」
「お別れなんて嫌!」
「すまない、ワシが体裁ばかり考えたせいじゃ」
「ごめんね」
「謝るなんて間違ってるわ」
「目覚めたころには、ワシらはミイラじゃ」
「怖いわ」
「15歳の誕生日に祝宴をあげよう」
「王女の旅立の日ですね」
「そうじゃ、世紀の旅立ちじゃ」
そうして、幸せかみしめた 15年はあっという間に過ぎ、王女の15歳の誕生日になりました。
王は、先の12人の魔法使いを集め、祝宴をあげました。
「この 15年間は、本当に有意義じゃった。ダウン症と対峙し、多くの進展があった。福祉の重要さと難しさ。王女が眠りについても、天命を懸けてダウン症の活動に取り組んでいくつもりじゃ」
「王を支え、精進します。この命尽きるまで、王女の寝顔を見て生きますわ」
王女は、涙ながらに応えた。
「生まれた時から試練がありました。でも、その分、お父様とお母様の愛情を受けました。そして、支えてくれた皆様に心から感謝しています。・・・もうお別れなんですね」
「王女よ、100年の眠りから覚めた暁には、君は自由だ」
「そうよ、気負わず、人生を全うしてね」
「お父様とお母様のいない人生なんて意味がないわ」
「・・・もう時間じゃ」
「・・・お別れね」
「嫌・・・」
誕生日が過ぎ、王女は眠りに就きました。
「王女よ、幸せになるんじゃぞ」
「あなた・・・私・・・」
「何も言わなくていい。十分頑張った、15年間」
王も王妃も喪に服し、次の朝を迎えた。
すると、なんということでしょう。王女が目覚めたのです。
「100年の眠りは、いったいどうしたんだ?」
国中が驚いていると、あの13人目の魔法使いが再び現れました。
「家族の絆は深まったかい?」
「どういうことじゃ!?」
「お主たちの人生で遊ばせてもらったよ」
「100年の眠りはないんですか?」
「そんなことする訳なかろう」
「王女よ、また一緒に過ごせるわ!」
「ありがとうございます、魔法使いさん」
「ダウン症を治すかい」
「このままでいいです」
王女は、ダウン症でいることを望みました。魔法使いは、その言葉に満足し、笑顔で立ち去った。
「15年間、有意義じゃった」
「あの方は、すべてお見通しだったのかもしれませんね」
「いつまでも一緒にいてね」
「もちろんじゃ」
「ダウン症児のための活動をしたいの」
「突き進むんじゃ」
「一度死んだようなものだから何でもできそう」
「ダウン症も考えようによっては悪くないのかもしれぬ」
「ダウン症だからこその人生ってある」
了
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