童話
人魚姫
人魚の王国での話。国王には、6人の娘がいました。末っ子の15歳の人魚姫はダウン症です。
ある嵐の日、いつものように、難破船から人々を救うため、末っ子の人魚姫は、海に出ました。
「また、多くの人々の命が失われていく・・・助けなきゃ」
その時、自分の命を投げ出し、乗組員を救う、とても勇敢な王子に出会いました。
「王子! 私に構わず救命艇に乗ってください!」
「俺は最後だ! みんな、諦めるな! 必ず助ける!」
「何て勇敢な方・・・」
しかし、王子は、難破船から投げ出され、海深くに沈んでしまいました。
「私が助けなくてどうするの」
人魚姫は、必死に王子を救い出し、海岸へと運びました。
しかし、その時、人間の娘が通りかかりました。
「いけない・・・」
人魚は、その存在を人に知られてはいけません。
「娘さん、王子に気付いて」
娘に、王子を託し、自らは身を引きました。
「素敵な方だった・・・」
海の宮殿に戻った人魚姫は、王子のことで頭がいっぱい。お姉さんたちにからかわれました。
「貴方、人間に恋したの?」
「恋じゃないもん!」
「あら、顔が赤くなってる」
その後、人魚姫は、王子のことが忘れられず、禁断の策に出ました。海の女の元を訪れたのです。
「人間の姿になることができる薬があると聞いたんですが」
「あるわよ」
「ください」
「声を失うわよ」
「・・・構いません」
「いい覚悟ね」
「王子の航海を支えたいんです」
「そう・・・もう一つ条件があるわ。もしも王子が他の女性と結婚したら、貴方は海の泡となって消えてしまう」
「・・・分かりました」
こうして、人間の姿になった人魚姫は、喜び勇んで、王子の元を訪れました。
「・・・」
王子を救ったのが自分であるとは言えないどころか、王子に声を掛けることさえもできないのです。その歯がゆさに毎日泣いて過ごしました。
「(これじゃ、意味がないや)」
「君は話ができないんだね」
「(折角声を掛けてくれているのに)」
「気にすることはないさ。誰にだって弱点はある。それを補うために家族・友人を持つんだ」
「(貴方の妻になりたいの)」
「紹介しよう、僕の妻となる女性だ」
「(え!?)」
その女性は、海岸で王子を介抱した娘でした。
「僕の命の恩人さ」
「(そんな・・・)」
悲嘆に打ちひしがれる人魚姫をよそに、王子は娘と結婚してしまいます。
「(海の泡になってしまう・・・)」
その時、人魚姫の姉たちが現れ、言った。
「この短剣を魔女に貰ったわ」
「(魔女に?)」
「これで王子を刺し殺せば、人魚の姿に戻れるそうよ」
「(魔女って、何を失ったの)」
「私たち5人の髪を失ったわ」
「(髪を・・・)」
「貴方を救うためよ」
「(ありがとう、お姉ちゃん)」
「さあ、心を鬼にして王子を刺しなさい」
短剣を渡された人魚姫は、もちろん、王子を刺せません。
「(えい!)」
なんと、人魚姫は、短剣で、自分の心臓を一突き。
「(どうせ、海の泡と消えるなら、お姉ちゃんたちの髪の替わりに得たこの短剣で、自ら命を絶つわ)」
人魚姫の姉たちは、その姿を見て言った。
「魔女からの最後の取引があるの」
「(・・・なに・・・?)」
「短剣で、自らの命を絶つのであれば、人間として生まれ変わることができる」
「・・・お姉ちゃんたちの妹だっただけで十分だよ」
「あら、声が出た!」
そこに、魔女が登場した。
「声は戻した。短剣の傷は、すぐに癒える。そこまでの覚悟があるのなら、元の生活に戻りなさい」
「・・・ありがとう魔女様」
「礼を言われるのは嫌いだよ」
「・・・あら、私たちの髪も元通り」
こうして、全てが元通りになりました。
ただ違うのは、王子が結婚してしまったこと。
それでも、人魚姫は、誓います。
「王子の航海はずっと見守る!」
「貴方は、本当にいじらしいのね」
「性分ですから」
「また顔を赤くして」
「お姉ちゃんたちだって、髪を差し出してくれたのに」
「貴方の周りはみんな賢者になるの」
了
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