童話
わらしべ長者
昔々、おばあさんと二人暮らしのダウン症の若者がいました。
若者は、働けど働けど、貧しい生活を強いられ、ある日、観音様にお願いしました。
「どうか貧しい生活から抜け出し、幸せになれますように」
すると観音様からお告げがありました。
「最初に触ったものを上手く使いなさい」
若者は、よく意味が分かりませんでしたが、帰路に着くと、道で転んでしまいました。その時です、ふと手を見ると、一本のわらしべを握りしめていました。
「こんなわらしべ一本で幸せになれるんだろうか」
若者は、少々けげんそうな様子ですが、とにかくお告げ通りにわらしべの使い道を考えていました。
その時、道端にいる子供の所に大きなアブが飛んできました。子供は激しく泣き、母親がアブに刺されまいとして、必死に追い払っていました。
「そうか、わらしべを使って追い払うんだな」
若者は、わらしべでアブを追い払うことにしました。すると、アブがわらしべに絡まってしまいました。アブがブンブンと動くたびに大きな音がするおもちゃの出来上がりです。
「これは面白い」
若者が気に入っていると、激しく泣いていた子供が泣きやみ、わらしべを欲しがりました。
「これは大事なわらしべなので・・・」
若者は、わらしべをあげるのをためらいました。でも、優しい若者は、自分の利益は選ばず、大事な大事なわらしべを子供にあげました。子供は大喜びです。
「代わりにこれをあげましょう」
母親が、みかんを一つ出しました。若者は、また貧乏生活に逆戻りかと、残念ですが、みかんを受け取りました。
夏の暑い日、街道を歩いていると、気分を悪くした女の子がいました。うずくまり、元気がありませんでした。
「何か飲み物をください」
女の子が、飲み物を求めてきました。しかし、若者は飲み物を持っていません。
「みかんで良ければありますが?」
「助かります。是非頂けませんでしょうか」
若者は、みかんをむいて、女の子に食べさせてあげました。
女の子は、元気を取り戻しました。
「本当にありがとうございます」
「いえいえ、お役に立てて光栄です」
ついに、手ぶらになってしまった若者は、とぼとぼと帰路につきました。
すると、後ろの方から立派な馬車がきました。
「あのお方です」
よく見ると、先ほどの女の子と、その父親が乗っていました。
「娘を助けてくれたお方ですか」
「助けるだなんて。みかんをあげただけです」
「いえいえ、助かりました。どうぞこの反物を受け取ってください」
若者は、立派な反物を受け取り、感慨深げ。
さらに道を進むと、傷ついた馬がいました。よく聞くと、侍が馬に乗っていたが、馬が怪我をして、殺処分するという。
「この反物を馬と交換してください」
若者は、大事な反物と怪我をしている馬と交換してもらいました。
「大丈夫かい? もう大丈夫だよ。殺処分なんてしないよ」
若者は、甲斐甲斐しく馬を介抱し、何とか歩けるまでに治しました。
そして、馬を連れて、都に入りました。
しかし、目を離したすきに、馬泥棒に馬をとられてしまいました。意気消沈した若者は、とぼとぼと道を進むと、人だかりができていました。何かと思ったら、一人の大泥棒が捕まっているところでした。近くには、若者の馬が横たわっていました。馬に乗って逃げた大泥棒でしたが、馬の怪我のせいで、途中で落馬し、捕まったということで、馬の持ち主を探しているとのこと。若者は、名乗り出ると、大商人から、大金を頂けることになりました。
「馬はどうなりましたか?」
大金には目もくれず、馬の心配をする若者。
「大丈夫、都の獣医師なら治せます」
「良かった。このお金で治療費を払います」
「いえいえ、私に払わせてください」
大商人は、馬の治療費までも負担してくれました。
元気になった馬に乗り、大金を持って、おばあさんの元に戻った若者。
心配していたおばあさんは、大喜びしてくれました。
「泣いた子供、気分を悪くした女の子、怪我した馬、みんなを助けようとした結果だね」
「本当だ、みんな困っていたよ」
「人助けをすれば、報われるということだね」
「僕が人助けを?」
「そうですよ、君は強い。どんな時だって自分のことより、みんなを気遣っていた。それが報われたんですよ」
「・・・おばあちゃん、僕、幸せだよ」
「今もこうして、おばあちゃんを助けてくれた」
「僕は一番大切なものを手に入れたよ」
「それは何だい?」
「おばあちゃんの笑顔さ」
了
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