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死神


 お金に縁がないダウン症の男が、やまいに伏す母親に言った。
「俺についているのは、貧乏神びんぼうがみじゃなくて死神だ」

 すると、本物の死神が表れて言った。
「お前に俺の姿が見えるようにしてやる。医者になれ。もし、俺が病人の枕元まくらもとに座っていたら、そいつはダメ。足元に座っていたら、助かるから呪文を唱えて俺を消せ」

 男は、見よう見まねで医者になり、病人の元に向かった。
 横たわる病人の枕元に死神がいる。
「ああ、こいつはダメだ・・・。ご愁傷様しゅうしょうさまです」

死神
 そんなある日、大富豪だいふごうの商人の家で、若い娘が病床にいた。原因不明の難病なんびょうで、どんな医者も治せなかった。  男が行くと、死神が足元に座っていた。 「足元だ。助かる」  男は、呪文を唱えて、死神を消した。そして、娘の病気は、完治かんち。大金を貰った。  男は、今までの借金をすべて払い、お金を使い果たした。  また、貧乏な生活に戻った男だったが、死神は、いつも枕元。 「これじゃ、金にならない」  そんなある日、お偉いさんの娘の元を訪れると、再び、死神が枕元にいた。  そこで、男は、悪知恵わるぢえを働かせた。 「布団を回して、死神のところに足をもってっちゃえ」  死神がうとうとと寝入ったところを狙って、布団を回して、死神の元に足を持って行った。 「さあ、呪文だ」  男が、呪文を唱えると、死神が消え、娘の病気が治った。  男は、大金をもらったが、再び、借金の支払いに使わざるを得なかった。  また、怒った死神が表れ、男を洞窟どうくつに連れて行った。 「このろうそくは?」 「お前たち、人間の寿命だ」 「これ、消えそうだ」 「そいつは間もなく死ぬ」 「そんなことが分かるんだ」 「これが、お前の母親のろうそくだ」 「消えそうじゃないですか」 「これがお前のだ」 「まだ大丈夫だ」 「俺が吹き消せば、お前は死ぬ」 「・・・どうぞ。母さんが死ぬなら僕も死ぬ」 「お前面白いな」 「どうして、母さんの枕元に立つんだい?」 「寿命だから仕方ねえ」 「じゃ、こうしたらどうだい」  男は、自分のろうそくを掴み取り、母親のろうそくの上に乗せた。 「何してるんだ、お前!」 「これで、母さんの寿命が延びるんだろう」  死神は、慌ててろうそくを元に戻した。 「こんな事をしやがったのは、お前が初めてだ、死ぬぞ」 「母さんの足元に立ってくれ」 「それはできんが、また眠くなることもあるかもしれん」  男は、洞窟を出て、母親の元に戻り、死神を見た。 「また、枕元か。・・・死神が寝ている」  男は、以前やったように、布団を回し、呪文を唱え、死神を消し去った。 「母さん、大丈夫かい?」 「ああ、なんだか体が軽い」 「凄い、治ったんだ。あのろうそくどうなったんだろう・・・」  洞窟の奥、死神が自分のろうそくを折り、男の母親のろうそくに乗せた。 「これで十分だろう。長生きしやがれ」




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画像の出典

  1. https://nlab.itmedia.co.jp/nl/articles/2005/06/news010.html

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